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『じおらま富山。』ミニチュアのように仕上げた動画で世界でも人気に!

記事公開日:2025.06.09

ジオラマ風「#富山はかわいい」

ちいさな人間や車がコミカルに動き回っていて、眺めているだけでなんだか笑顔になってしまう。そんなショート動画を作成して公開しているのがインスタグラムアカウント『じおらま富山。』です。映像作家であるWally(ウォーリー)さんが、さまざまな富山のリアルな風景を「ジオラマ風」にアレンジしています。

もともと看護師として働いていたWallyさんは、学生時代にバンド活動に没頭し、曲づくりなども行っていました。そこから映像クリエイターの道へ。かつてよりクリエイティブな表現に興味のあったWallyさんにとっては必然だったのかもしれません。

「軽い気持ちで、ジンバル付きのアクションカメラを買って撮影してみたら、“もしかしたら、おれ、センスあるかも”と思って(笑)」

さらに本格的な機材なども揃え、ビジネスとして映像の仕事を請け負い始めました。ところが次第に興味はアーティスト活動へ。

ピーター・マッキノンやサム・コルダーなど、動画サイトやSNSの世界でビデオグラファーと呼ばれるアーティストが登場しており、Wallyさんが映像アーティストとして活動していくきっかけのひとつにもなったといいます。

それが『じおらま富山。』につながっていきます。「ジオラマ風」という手法は、ある言葉がきっかけになりました。

「チャールズ・チャップリンの名言に“人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ”という言葉があります。それをコンセプトとして具現化してみました」

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    大画面で動画を映して説明してくれました。

そして、まるでミニチュアのような、ジオラマのような映像の世界をつくり上げました。今でも本当にジオラマをつくっていると思っている人や、AIだと思っている人も多いようです。スチール写真の世界では、以前からティルトレンズと呼ばれる特殊なレンズを使用してジオラマのように撮影する手法は行われていました。Wallyさんはそれを動画に使用します。

ただし手法や機材の性能に溺れることなく、しっかりと戦略を考えていました。まずはSNSを主戦場に、スマートフォンで観てもらうこと。

「タテにしたときにボケの範囲が多くなって、よりミニチュアっぽく見えます。だからスマホで観るSNSと相性がいいと考えました」

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    高い場所から見下ろして撮るのが基本構図。

SNSは戦略的に

だからこそSNSでの見せ方を追求しています。Wallyさんは『じおらま富山。』のかわいい世界観を表現する一方で、マーケターとして数字を読むことができる能力も発揮しました。

「SNSでバズるアルゴリズムなどは、当初からすべてつくり上げていました。その段階で世界でも人気が出るはず、という確信もありましたね」

最近の一例として、いきなりジオラマ動画が始まるのではなく、レンズを上下に動かすシーンから始める試みを行っています。通常とは異なる、ティルトレンズ特有の動きです。

「こんな風にレンズが動くってどういうこと? というところをフックにして、ジオラマ動画のプロセス自体にもおもしろさを感じてもらおうと思っています」

この動画が始まると、動画内で勝手にカウントダウンが始まります。

「人って、目の前でカウントダウンされるとゼロになるまで見たくなっちゃうものなんですよね。実はカウントの10、9は時間が少し短くなっています。一瞬で“カウントダウン”であることを認識させるためです。滞在時間が大事なので、これだけで10秒ほど稼げるわけです」

このように行動経済学や心理学と経済学の応用、アルゴリズムをすごく分析しているといいます。看護師としてのエビデンスを大切にしていく姿勢が、バンドマンとしてのアーティスト気質と融合しています。

「エビデンスも重要ですし、仮説を自分で立てて実証していくのが好きですね。映像を始める前には、“良い映像”についての論文なども読んでいます。自分のセンスは信じているけど、過信はしていません」

自分の好きなものが、世の中にも受け入れられものなのか、データをもとに確証を得ていく。このバランス感覚が幅広い層に受け入れられるアウトプットとなっているのでしょう。
 

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    座右の銘は「一騎当千」。

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    一緒に撮影スポットへ。立山もうっすら見えました。

切り取り方で富山を発信する

『じおらま富山。』を観ていると、特に観光地ばかりを撮影しているわけでもないようです。撮影場所はどのようにして選んでいるのでしょうか。一番重要なのは、実は「高さ」だとか。

「とにかく高ければ高いほどいい。できれば斜め45度で見下ろして、空を入れたくないんです。空がないほうがジオラマっぽく見える。でも富山では“高さ”が足りません。いい場所だと思っても、周辺に高い場所がないことが多いんです」

さらに「人もいればいるほどいい」といいます。高さと人の多さ。その点でいうと富山(に限らずほかのローカルでも)は撮影環境として優位性があるわけではありません。

「都会のバタついてる感じが一番ジオラマっぽく見える。だから富山はやりやすいわけではありません。東京は、被写体そのものが数字を持っています。だけど、逆に富山でやっているほうが、つくり手のセンスが問われるような感じはしていて、やりがいがありますね」

この活動を通して富山の魅力を伝えたいのかといえば、それが第一ではないようです。

「新しい場所を教えたり、富山の魅力を発信しようという気持ちで始めたわけではありません。いますでにあるものでも、切り取り方次第で世界に発信できたり、数字を持つことができるということを伝えたいと思っています」

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    学生時代は映画が大好きで、映像を見る審美眼が培われた部分もあるといいます。

有利な環境ではないからこそ、創意工夫をする意義があります。もちろん結果的に富山を知ってもらうきっかけになればうれしいとも。

「自分の発信を見て、富山に興味を持ってもらうことはもちろんうれしい。クリエイターやアーティストがまずは“認知”を生み出して、そのあとに仕組みや施設がついてくる。そういう順序でもいいんじゃないかと思うんです」

実際、Instagramでのリーチは世界中に広がり、フォロワーの約7割が海外ユーザー。ニューヨーク・タイムズに富山市が掲載された際には、アメリカのフォロワーから「君の作品の場所じゃないか?」と連絡が来たほどです。海外からでも大きく「日本」ではなく、ピンポイントで「富山」と認識されるきっかけにもなっているようです。

富山だからバズったということもあるでしょう。仮に渋谷駅のスクランブル交差点の映像だったとしたら、なんとなく見たことがあったり、知っている場所として認知されます。そのような有名なスポットとは異なり、富山の日常の風景であれば、まずは映像のおもしろさ自体にフォーカスされます。だからこそ、世界へと通じる個性になったのかもしれません。

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    マネージメントしてもらっている〈Sauce by KAN-NARI〉の事務所にて、部長の泉 悠斗さんと。

現在では、自身のSNS運用だけでなく、映像マーケティングのコンサルやオンラインサロンも展開。さらに海外での展示活動も広がっています。サンフランシスコでの展示にはAppleのアートディレクターも訪れたといいます。

「ユーザーとしては同じ1ですけどね」と笑いますが、「フォロワーが10万人ではなく100万人だったら仕事につながったかもしれない」と、数字が持つチカラを再認識したようです。

現状では、「富山の風景」というより「かわいい、おもしろいミニチュア動画」として認識されている、つまりクリエイティビティのほうが先を走っている状態です。あとから富山の風景だと知って2度発見があります。

「見たことある、聞いたことあると認知されることが一番重要です。そういう意味では、富山の入口として意味があるものになっていれば幸いです。願わくば、富山を訪れてくれるなど、次のステップに進んでもらえればうれしいです」

Information じおらま富山。

credit text:大草朋宏 photo:利波 由紀子


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