- posted 2025.09.22
世界的な建築家の共演。自然あふれる富山県南砺市に開業予定、プレイアースパーク ネイチャーリング フォレスト
記事公開日:2025.05.28
- posted 2025.09.22
土地の魅力を引き立て、自然と遊ぶ
豊かな自然が残る、富山県の南西部にある南砺市。特に桜ヶ池周辺は、市民の大切な憩いの場となっています。そんな場所に、自然と共生できる場づくりを行おうとしているのが、2027年初夏に開業予定の〈プレイアースパーク ネイチャーリング フォレスト〉です。
40ヘクタールの敷地に6つの施設が建てられる予定。ただし建築といっても、自然の力や景観を生かし、土地と融合し高め合う「装置」になりそうです。
「庭や森の中など、自然を通して子どもたちが夢中になって遊び、そこで気づいた不思議さを深堀りできる体験を提供したいと思います。そして桜ヶ池という、地元のみなさまが毎日のように通う身近な自然を通して、人々の生活を少しずつ変えていくきっかけを提案していきたいと考えております」と話すのは、この施設を開発している〈ゴールドウイン〉社長の渡辺貴生さん。
プレイアースパーク ネイチャーリング フォレストは、3つのエリアにわかれています。まずはパークエリア。子どもたちが直感的に走り出したくなるようなランドスケープになります。2つめはフォレストエリア。自然を観察し、その不思議に出会う場所。3つめは自然の営みに学び、体験できるガーデンエリアになります。
桜ヶ池周辺は、北側に砺波平野が広がり、南側は山並み。「まさに人々の営みと自然の接点に位置する」と話すのは、全体のランドスケープ設計を担当した〈高野ランドスケーププランニング〉の村田周一さん。
「池があり、起伏のある山があり、田んぼや畑がある。とても複雑な地形で、光が当たるところがあれば、当たらないところもある。風が吹くところと吹かないところもあり、多様な“微気象”が生まれます。自然との共生にチャレンジしていくには本当に適した敷地だと思っています」(村田周一さん)
この施設の開発にあたって、ただ環境を利用するだけでなく、具体的な自然への取り組みも行うようです。
「スギの人工林をゆっくり間伐していって、天然林に戻していきます。また森が一部分断した場所があるので、新たな森をつくってつなげていくこと。さらに現在の森、水辺、農地に追加するかたちで、草花の咲く草原環境をつくり、虫、小動物が棲息する環境をつくっていきたいと思います」(村田周一さん)
ガーデンエリアのデザインは、世界的なガーデンデザイナーであるダン・ピアソンさんが手がけます。
「私が日本を愛してやまない理由のひとつに、細部への配慮があります。例えば、5日ごとに季節を変える七十二候。ゆっくりとした時間のなかで、小刻みなサイクルを意識し、環境の微妙な変化を常に感じ取ろうとする素晴らしい世界観だと思います」(ダン・ピアソンさん)
こうした古くから伝わる日本の文化は、現代のガーデンにおいても、訪れた人が自然との関係性を見つめ直すものとなりそうです。
「それぞれの場所において、その土地や風土に適した植物を選ぶことで、七十二候の微細な季節の変化を感じ、楽しむことができるように設計しました」(ダン・ピアソンさん)
こうした自然活動であっても、それだけでは人々の興味関心を惹きにくいもの。そこに建築があることで、環境への意識が生まれます。
今回参加している建築家は、渡辺社長いわく「自然のことをすごく考える建築家」。
「自然との共生や、自然と人間の境目をどうやってつくっていくのか。自然がわれわれにどういう影響を与えてくれてるのか。そういうことを本当によくご存じのみなさんです」(渡辺社長)
それを担う6組の建築家は、川島範久さん、リナ・ゴットメさん、萬代基介さん、榊田倫之さん、マリア・リソゴルスカヤさん、本瀬あゆみさん・齋田武亨さんです。
自然と共生する、6つの多様な建築
多くの建築家が参加していますが、フィールドはそれぞれだし、個性的。みなさんがどのように機能していくのでしょうか。「個性はそのまま生かしたほうがいい」と渡辺社長は言います。
「このプレイアースパークは、植物や動物、自然環境の多様性のなかにあります。それを前提にデザインするほうが、結果的におもしろく、ユニークなものになると思います。もちろん基本的なコンセプトはみなさん同じことを持っていますので、結果として生まれてくるものは整っていて素晴らしいものになるはずです」
まずは玄関口となるプラザ棟。ウェアやギア、食品などのショップが併設され、人が集う拠点としてプレイアースパークのエントランスになります。設計するのは川島範久さん。
「地形の切り替わりである結節点で、15メートルの落差があります。これを建物でつなげていく役割を持つプロジェクトです」(川島範久さん)
県産材の活用、雨水利用、ソーラー発電、地域材の再利用などを通じて、環境負荷を抑えた持続可能な空間を目指しています。こうした取り組みを通して、アメリカの認証機関による「Living Building Challenge」の日本初取得を目指しています。
「里山というのは、人間が関わっていくことで、逆にその相乗効果で自然を再生していく力があると思っています。そうした再生の要となるようなものをつくりたいと思います」(川島範久さん)
レバノンのベイルート出身のリナ・ゴットメさんが設計するのは展望塔。まるで森の中に出現した1本の大木のようです。ここは森の中の観察拠点となります。地上20メートルにある展望台からは、敷地全体はもちろん、遠く砺波平野も望めるとか。
「下層では背の高い草や樹木の幹が視界を覆い、螺旋階段を登っていくにつれて、樹冠を抜け、広大な光景が広がります」(リナ・ゴットメさん)
地上階にはそれぞれの方角に自然観察の部屋が設けられていて、地下階にはガラス越しに土中の植物の根や虫のような感覚を得られるといいます。
「自然と人間が再び連帯感を取り戻し、探求する装置になるといいと思います。自分自身を自然の一部と捉え直すことは、建築のあり方も変化させるのです」(リナ・ゴットメさん)
パークエリアにある地形のような建築を設計しているのは、萬代基介さん。もともと7メートルほどの起伏があり、その地形に沿うように「屋根」をかけています。
円形に周遊できるリング状で、屋根の上にも子供が登れるような場所があり、内部空間もいろいろなマテリアルを使いながら子供の感性を刺激。自ら遊びを発見していくような場所になるといいます。
「いわゆる、遊び場の遊具みたいなものにならないようにしたいと思っています。大部分が半屋外空間なので、リングの中で遊びが閉じるというよりは、内と外が連続するような遊び。例えば滑り台を滑っていったら、知らないうちに外に出ていっちゃうとか。半屋外なので、降った雨が内側に入ってきてしまいますが、それ自体が遊びにつながったり、一緒に入ってきた落ち葉が遊びにつながったり」(萬代基介さん)
萬代さんいわく「子どもの野生を解放する建築」になりそうです。
南砺市の散居村からインスピレーションを受けたヴィラは、榊田倫之さんにより設計されました。「控えめで小さく美しい建築」です。
「自分がどの場所に存在しているか、それを感じているかということを、ひとつの装置として体験していくという建築を構想しています」(榊田倫之さん)
それは空間の向きでもあります。
「やはり寝室で日が昇るのを感じたいし、昼間は南側から光がありますので、北側の風景がものすごく美しいです。そして西の山並みから夕日が降り注いでくる。そういう体験を、自分の存在を意識しながら感じてもらいたい。そういう仕掛けをつくっていきたいと思います」(榊田倫之さん)
キャンプサイトは、イギリスの建築家コレクティブ、アセンブルによるもの。「富山のランドスケープから収穫してつくり出す」というコンセプトで設計しています。
「富山で出会った工芸品や人々のホスピタリティを、キャンプサイトのデザインや体験そのものに反映させています」(マリア・リソゴルスカヤさん)
もともと田んぼだった形状や高低差を利用。テントサイトごとに異なる植物を育てるなど、それぞれのランドスケープが生まれます。
調理棟やキャンプストアなどの施設は、地域の木材を構造材に、もみ殻や粘土を壁に使っています。また地場産業の廃材を原材料とした塗料による塗装も行っているといいます。
「地域の産業と協業して、農業、工業、工芸の知識や技術を学びました。単に建築に必要なマテリアルを調達するだけでなく、地域の経済的な循環やこのプロジェクトで生まれた新しいアイデアが、独立したプロジェクトとして成功するようなコラボレーションになるといいと思います」(マリア・リソゴルスカヤさん)
地形を生かして子どもたちが自由に探検し、発見が生まれるような仕掛けもデザインされているようです。
富山の建築家が見た桜ヶ池と富山の水
最後に紹介する建築は、富山にも拠点を持って活動している本瀬齋田建築設計事務所(サモアーキ)の本瀬あゆみさん、齋田武亨さんによるアクティビティセンターです。桜ヶ池の水辺でアウトドア遊びをする拠点となります。そこにはふたりが富山に拠点を持っているからこその視点が込められていました。
「富山県は南北ですごく高低差が大きくて水が流れています。だからため池とか用水とか、水によって長い時間かけてつくられた風景がたくさんあるんです。私たちも好きで、よく見に行っていました。名も無い野良の滝なんかも好きです」と、水への興味が強い齋田さん。富山県は飲み水がおいしいことでも有名です。
「桜ヶ池は南砺市の方々が、時間をかけて、農業や生活のためにつくった池。山から流れてきた水を田んぼに流す。そうした営みを象徴するような場所なんです。今回はその場所の土を壁に使用していく予定です。桜ヶ池と同様に、これから10年、100年と継続される活動によって少しずつ削られていく。そんな風景を目指しています」(齋田武亨さん)
南砺市は自然豊かな土地です。南砺の人々の暮らしも、プレイアースパークが目指す暮らしのひとつのようです。
「私たちは富山市が拠点ですが、南砺市はすごく“ネイチャリング力”が高いと感じます。ネイチャリングのエリートみたいな人たちのまち。例えば、毎朝、食卓に並ぶ木の実や野草を採りに行くことを、日課にしているような暮らしとか。だから、ここを訪れた人が新しいネイチャリングを南砺の人から発見し、それを発信できる場所になるとおもしろいと思います」(齋田武亨さん)
本瀬齋田建築設計事務所(サモアーキ)は、南砺市利賀村に、今や世界中からグルマンを集めるレストラン〈L’evo〉を設計しています。自然のなかにできた、価値創造の最たる例です。
「ちょっとおこがましくはあるんですけれども、建物を設計することを通して、その土地の魅力をPRできればいいなと思っています。もともと誰も価値だと思っていないところに、“場所”をつくったことで価値が生まれる、場所の価値を引き出してあげる。それは富山に住む私たちができることなのかと思います」(本瀬あゆみさん)
年間100〜150万人という観光客が見込まれている〈プレイアースパーク ネイチャーリング フォレスト〉の構想には、行政の受け入れ体制も重要です。当然、宿泊施設、飲食店、公共交通などの整備が必要になり、それにともない雇用も生まれていくでしょう。
南砺市の8割は山林。「豊かな自然を大切にし、エコビレッジ構想やSDGs未来都市をまちづくりの中心にして取り組んできました。まずはコンセプトを共有してまちづくりをしていくことが大切だと思います」と言うのは、南砺市長の田中幹夫さん。
本当の意味で、手つかずの自然というのはもうあまりありません。であるならば、人間が最低限の手を加えることで、逆に土地の魅力を引き出し、自然と共生していく。子どもたちだけでなく、どんな人にとっても生きるチカラが湧いてくる施設になりそうです。
Information Play Earth Park Naturing Forest(プレイアースパーク ネイチャーリング フォレスト)
address:富山県南砺市立野原東外 桜ヶ池周辺
開業予定:2027年 初夏
credit text:大草朋宏 photo:那須野友暉
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