- posted 2025.09.22
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- #高岡市 #gourmet #lifestyle #とやまの居心地達人 #お土産 #手仕事
型にはまらず、しなやかに。伝統を今につなげる老舗和菓子屋〈大野屋〉大野悠さんの挑戦
記事公開日:2023.12.06
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故郷を離れたことで視点が変わり、伝統の価値を知る
高岡市の中心部にある土蔵造りのまち並み、通称「山町筋(やまちょうすじ)」の一角にある〈大野屋〉。その歴史は天保9年(1838年)にまで遡り、醸造業から菓子屋に転じたのが始まりです。
老舗和菓子屋の長女として生まれた大野悠(おおの・ゆう)さんは、若い頃は和菓子よりも、古着や洋服に興味があったことから、高校卒業後は金沢美術工芸大学に進学し、大学院を含め6年間、染色や織物を学びました。その後、東京が拠点のアパレルブランド〈ヨーガンレール〉に就職し、テキスタイルの素材開発に携わります。
「素材そのものをデザインし、糸1本からどのようにして生地をつくるかといった企画をしていました。当時はヨーガン・レールさんがテキスタイルデザイナーだったのですが、美意識の高さや環境への配慮といった考え方などは影響を受けましたし、いろいろと学ばせていただきましたね」
そこで4年ほど働いていましたが、あるとき大学時代の恩師から声がかかり、母校の大学院でテキスタイルデザインの講師を務めることに。
「実家の両親が気がかりであったのと、アパレル業界での仕事を続けるかを迷っていたタイミングでもあったので、母校の金沢美大で講師をしながら家業も手伝うようになりました」
高岡市には結婚を機に10年ほど前にUターン。大野屋では主に、商品企画やさまざまなデザインを担当しています。
故郷を離れ、大学での学びや東京での仕事を経て、再び向き合うことになった家業である和菓子づくり。新しいものを求めていた10代の頃の考え方とは大きく変わっていました。
「ヨーガンレールで働いていたときに、小さい工場さんやすぐれた技術を持っている方々と一緒にお仕事させていただく機会があり、伝統技術によって、今の時代にも評価されるものがつくられている現場を目の当たりにしました。そのとき初めて、単に古いと思っていたものがいかに貴重なものかを感じることができたんです。お金では買えない歴史や文化が残っているのって、すごく貴重なことですよね」
そんな悠さんにとって大きなチャレンジとなったのが、今や県内外から注目を集め、高岡土産の新定番にもなりつつある〈高岡ラムネ〉の開発です。しかしながら老舗和菓子屋としての葛藤もあり、9代目である父や職人さんからは、「どうして和菓子屋が駄菓子をつくらなきゃいけないんだ」と反対の声が上がっていたそうです。それでも実現したいという強い思いは、どんなものがあったのでしょうか。
〈高岡ラムネ〉で和菓子の技術と文化を現代に伝えたい
「私としては、このラムネをきっかけに新しいものを提案していきたいっていう気持ちが強かったんですよね。当時はお店の売り上げもどんどん落ちてしまっている状況だったので、何か新しいことをやらなければという気持ちがありました。もうひとつには、お店に眠っている大量の和菓子の木型を生かせたらいいなとずっと思っていたんです」
そんな話をしていると、あるとき大学時代の友人であり、プランニングディレクターの永田宙郷さんから「落雁の技法なら木型でラムネをつくれるらしいよ」という話を聞きます。
そこからふたりで試行錯誤を重ね、共同開発というかたちで2012年に完成した〈高岡ラムネ〉。ほどけるような軽い口どけに繊細な甘さ、ふくよかな味わいは、多くの人が子どものころに食べた駄菓子とは一線を画す、上質な大人のラムネ菓子といったところ。富山県産コシヒカリの米粉など素材にもこだわり、国産しょうが、柚子、梅といった和を感じるフレーバーは、ラムネとしても珍しいラインアップです。
「現代版落雁という発想で、和菓子屋なりの素材使いをしたいと思って考えました。高岡から発信するプチギフトやお土産品みたいな感覚で、地元の方以外のお客様にもお買い求めいただけるような商品をつくろうというのがありました。開発していた時期はちょうど北陸新幹線の開業直前でもあったので、そのタイミングを見据えていた部分もありますね」
職人が木型を叩く、カンカンカンという軽快な音が響き渡る工房内。木型は落雁など、和三盆を使ってつくる菓子を中心に用いられます。落雁とラムネのつくり方は一見似ているものの、材料が異なるため、型に入れたあとの圧の強さ、力加減が変わります。開発当初は、以前から保管していた木型を使っていましたが、新たに高岡ラムネ専用に小ぶりの木型を制作したそうです。
もうひとつの目的である菓子木型を活用することについては、木型職人の全国的な高齢化や後継者不足といった問題が背景にありました。和菓子道具をつくる人がいなければ、和菓子そのものも途絶えてしまいます。
その点で、このラムネがきっかけで実現できたことがあります。富山県南西部にある南砺市の井波というエリアは“井波彫刻”で有名な木彫のまち。そこにある〈Bed and Craft〉という宿が5周年を迎えるにあたり、高岡ラムネとのコラボレーション企画が立ち上がったのです。
「井波の職人さんにラムネの木型をつくっていただいたんですけど、すごく繊細で素敵だったんですよね。またうれしいことに、このときの出会いがきっかけで、うちの別の木型もつくっていただけるようなご縁ができたんです。和菓子の素材は地元のものを選んで使っていますが、道具まで地元の職人さんが手がけたものを使わせていただけることにすごく感動しました。この先のことを考えると、ほかにもそういう職人さんがいるとありがたいなあと思います」
和菓子と洋服。それぞれに異なるものづくりではあるものの、素材への探究心やデザイン視点からのアプローチという点では、悠さん自身の考え方に通じる部分があり、前職での経験が随所に宿っています。
「老舗」にとらわれすぎず、のびのびと
東京から戻り家業に専念するようになってからは、生まれ育った地元と自然に向き合えるようになったという悠さん。それまで意識していなかったことや当たり前のように感じていたことが、高岡ならではの良さであり魅力であると再確認する場面もありました。日常の暮らしのなかでは、こんなことも。
「スーパーのお刺身のクオリティがものすごく高くて、おいしいんです。こだわりの調味料や食材が豊富に揃う〈フレッシュ佐武〉というご当地スーパーは、高岡の食のオアシスだ! と思いました(笑)。お豆腐ひとつにしたって本当においしいんですよ。東京から来た友人たちを連れていくとみんなよろこんでくれます」
富山県高岡市は、400年続く歴史あるものづくりのまち。銅器や漆器、鋳物、彫金など、国内でも有数の工芸都市として知られています。
近年、〈大野屋〉がある山町筋という通りには、コーヒーショップやパン屋、ギャラリー兼セレクトショップなど、お店を営む人たちが少しずつ増えてきました。そのほか「高岡クラフト市場街」という地域のイベントもあり、5年前には大野屋も参加。創業180周年を記念して、10人の作家とのコラボレーション企画『とこなつの器展』を開催し、老舗でありながらも柔軟な動きで、まちに新しい風を吹かせています。
「高岡の移住やUターンの方は同世代の方も多く、私が戻ってきたタイミングとも重なっていたので、みなさんの存在に励まされましたし、心強かったですね。それとやはり小さいまちなので、お互いの顔が見えるっていう安心感はあります。あとは、まちを盛り上げている若い人たちの力も大きい。そこからいろいろな刺激をもらうことで、高岡の未来や新しいかたちが見えてくるようなおもしろさがありますね」
歴史と伝統を次の時代につなげていくためには、柔軟な発想を持って挑戦することが必要不可欠。それは、明治時代からつくり続けている〈大野屋〉の「とこなつ」が証明してくれているようでもあります。
「昔は大胆な和菓子が多いなかで、あれだけ繊細な素材使いと控えめな大きさの和菓子っていうのは珍しいですし、当時は大きな挑戦だったと思います。〈高岡ラムネ〉も私たちにとっては挑戦でしたし、そういう意味では伝統を守るだけでなく、いろいろなことに挑戦していきたいと思っています。私たちのつくる和菓子でみなさんに笑顔になってもらえることが一番の望み。大切なことはシンプルだと思うんですよね」
Information 大野屋 高岡木舟町本店
address:富山県高岡市木舟町12番地
tel:0766-25-0215
access:高岡軌道線「片原町」より徒歩3分
営業時間:8:30~19:00
定休日:水曜(祭日を除く)
※「高岡ラムネ」は、東京の〈日本橋とやま館 〉でも販売しています。
credit text:井上春香 photo:日野敦友
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