- posted 2025.09.22
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- #高岡市 #lifestyle #エンタメ #アート
絵を描くことでつながる、仕事と場づくり 高岡市在住の漫画家〈nifuni〉さん
記事公開日:2024.03.08
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あるとき急に訪れた人生の転機 ジュエリーデザイナーから漫画家へ
高岡市在住の漫画家、nifuniさん。デビュー作であり代表作はシリーズ累計308万部(2023年末時点)の『左ききのエレン』。絵を描くことを軸にだれかの役に立てる仕事がしたいと、漫画家という肩書きを超えてイラストレーターとしても幅広く活動しています。さらには2023年8月、自宅1階をリノベーションし、夫婦で経営するブックカフェ〈松キ〉をオープン。創作や制作の仕事をしながら、まちにひらかれた新しい場をつくりました。
大阪で生まれ、幼少期は千葉県市川市で過ごし、中学2年生の頃に家族で富山に移住。高校卒業後は高岡短期大学(現・富山大学芸術文化学部)で金属工芸を学び、卒業後はジュエリーデザイナーとして働いていましたが、その後、思いがけないかたちで漫画家としてデビューすることになります。
「漫画は小さい頃から好きで興味はあったけど、ずっとチャレンジするタイミングがなかったんです。当時、ジュエリーの仕事をしていたときは現場も人も好きでしたし、キャリアも長くなってきていたのでやりがいはありましたけど、マネジメント側になってなんとなく悶々としていた時期でもありました。
そんなときにちょうど『左ききのエレン』の原作者であるかっぴーさんが、別の漫画の作画担当を募集していたんです。全然経験ないけどやってみようかなと思って応募してみたら、最終選考まで残ったんですね。選ばれたのは別の方だったんですけど、それがご縁でリメイク版の企画で声をかけていただいたんです」
幼い頃の夢でもあった漫画家や絵を描くという仕事。原作のファンでもあり、作者を応援したいという気持ちもありました。目の前に現れたこのチャンスを逃すわけにはいきません。とはいうものの、もちろん片手間でできることではないため、nifuniさんは大きな決断をします。
「漫画家でやっていくならと、思い切って会社を辞めました。急なことで職場の人たちはたいへんだったと思うんですけど、ありがたいことに今でも応援してくれています。富山に引っ越したことや大学で工芸を専攻したこともそうなんですけど、初めてのことや環境が変わることに対しては、不安よりも先に楽しそうって思っちゃう性格みたいです。
予想外の展開のほうがおもしろいっていうか。漫画だって、この先こんなことないだろうからやってみよう! みたいな」
フリーランスとして活動を開始するとともに、2017年10月に『少年ジャンプ+』での連載がスタート。2022年10月で完結し、丸5年で全24巻を刊行しました。締め切りに追われる日々の苦労は多かったものの、達成感とやりがいはとても大きく充実していたと話すnifuniさん。連載終了後の落ち着いたタイミングで、かねてから考えていたブックカフェのオープンに向けて準備を始めました。
ひとりでつくり上げていくよりもだれかと一緒につくるほうが楽しい
nifuniさんの本業は漫画家。そもそもなぜ、このような場をつくろうと考えたのでしょうか。
「コロナ禍に人と会わなくなって、ひたすら画面に向かって黙々と仕事をしているとき、働き方のスタイルがどんどん変化していく様子を見ながら、よく考えてみれば私の仕事って、会社に出勤するわけでもないから家でもどこでもできるし、人と会いたいなら自分が行くんじゃなくてきてもらうこともできる。
カフェみたいなオープンな場所があればいろんな人が集まれるし、私自身も仕事部屋にこもりっきりになることもなくなるから、いいことがいっぱいあるんじゃないかなと思って」
そんなふうに思い始めていたとき、現在の店舗兼住居となる物件との出合いがありました。当時はすでに閉業していましたが、1階部分はもともと夫婦で経営されていたパン屋さん。自分たちの住まいや暮らしのビジョンも見えたことから購入に至り、リノベーションをしてお店をひらこうと考えます。
「自分ひとりで黙々と何かをつくり上げるというよりも、人とのコミュニケーションのなかでつくるということに興味があるんです。だれかが喜んでいる姿を見るのって、自分にとってもすごくモチベーションになるんですよね。前職のジュエリーの仕事がオーダーメイドをメインにしていたこともあり、そういう部分を大事にしていきたいという気持ちが芽生えたのかもしれません」
ブックカフェ〈松キ〉では古書やZINE、nifuniさんの作品を中心に、富山や北陸のつくり手の日用品や雑貨、食品などを扱い、カフェスペースではコーヒーや自家製のドリンクをはじめ、トーストやデザートなどの軽食も楽しめます。
「夫婦ふたりで小さくやっているお店なのですが、この辺りは本屋さんがないので本を読める場所ができたと喜んでいただくことが増えました。書籍のセレクトは夫が中心に行っています。私たちの本棚を見るぐらいの感覚で、たまたまでも好みの本に出合ってもらえればうれしいです」
客層は比較的若い人が多いものの幅広く、最近では高校生を中心とした学生も立ち寄ってくれるようになったのだとか。また、漫画『左ききのエレン』の熱狂的なファンという方で、わざわざ県外からやってきた人もいたそうです。読者と会える機会はそう多くないこともあり、お店をつくったことで生まれたうれしい出会いでもあったと話します。
「Webでの連載の場合、閲覧数だけでは読者さんの存在を実感しにくいところがあったのですが、お客さんから『読んでます』とか『このシーンが好き』みたいな話を直接聞けたりすると、ただただ孤独に描いていただけじゃなかったんだなとか、ちゃんと届いて受け取ってくれた人がいたんだ、しかも地元の富山にもいたんだっていうのが感じられて、それだけでもお店をやって良かったなと思います」
ポップなイラストや漫画で伝える伝統工芸だけではない高岡の魅力
大学時代を過ごした高岡市に戻ってきたのは3年前。卒業後は富山県を離れ、名古屋にあるオーダーメイドジュエリーの会社に長く務めていました。その後、結婚や漫画家への転身を経て、あらためて富山で暮らしていくことを決めました。そこには大学時代を思い出して懐かしくなる気持ちと、離れて戻ってきたことで感じる高岡の新たな魅力がありました。
「今でもそうなんですけど、初めて富山にきたときに感動したのは、まちを歩いていてこんなにも山がきれいに見えるんだっていうことですかね。山はもちろん海もあるし、季節が巡るたびに移り変わる田んぼの風景とか、そういう自然が身近にある環境は、創作活動するうえでも影響を受けていると思いますし、感性を刺激されるんだと思います。あとはやっぱりごはんがおいしいですね(笑)」
グラフィックの世界とはまた違う、工芸品やジュエリーのような画面越しでは伝わらない美しさを宿したものに惹かれるというnifuniさん。デジタルでなんでも受け取れる時代だからこそ、同じ空間で目の前にあるからこそ感じられるフィジカルなものの価値や魅力に対する憧れがあるといいます。
「進路を決めるとき、東京の大学も候補に入れていたんですけど、最終的には余裕を持ってのびのびと制作に集中できる環境がある地元の大学に決めて良かったと思っています。それまでは絵のことしか考えていませんでしたが、金属工芸を専攻したことでまったく知らない工芸の世界に足を踏み入れることができましたし、そこからジュエリーデザイナーという仕事につながったりもしたので」
独立するタイミングで決めた「nifuni」というペンネームは、仏教用語の「而二不二(ににふに)」という言葉に由来しているのだそうです。意味としては、物事はひとつの面だけではないというもので、自身の仕事や働き方とも密接に関係していて、そこには特別な思いや抱負がありました。
「本業は漫画家ですが、イラストレーターでもあり、ジュエリーデザイナーでもあり、いずれも私なんですよね。いろんなことをやってみたいし、全部含めて自分だっていうことを認めたいと思ったんです。これからも枠にとらわれずに自由に表現することをチャレンジし続けられる自分でいたいという思いがあります」
まちなかを歩いていると、お店の壁などに描かれた『左ききのエレン』のキャラクターにいくつか出会いました。これらは昨年開催された個展『nifuni展 -左ききのエレンとアートワークス-』の関連イベントとして行われたnifuniさんによるライブペイント作品。
最近では、まちにちなんだオリジナルキャラクターや選挙の広報イメージビジュアル制作など、富山に関わる仕事も増えています。
高岡といえば伝統工芸、だけではない魅力をポップなキャラクターやビジュアルを通じて発信すること。それは漫画家・イラストレーターのnifuniさんならではの表現でもあるのです。
Information BOOK&CAFE松キ
営業日:金・土・日曜(隔週)、月曜
営業時間:11:00〜19:00
※駐車場はありません。近隣のコインパーキングをご利用ください。
credit text:井上春香 photo:朝岡英輔
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