〈NiX Urban Skate Park〉が目指すスポーツが軸のネイバーフッドなまちづくり-1
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〈NiX Urban Skate Park〉が目指すスポーツが軸のネイバーフッドなまちづくり

記事公開日:2024.02.23

ゾーニングすることで、子どもや初心者から競技志向のプロスケートボーダーまで幅広く

富山駅の北側、親水広場にある〈NiX Urban Skate Park〉。昨年8月にオープンしたばかりとあって、まだ真新しいきれいなパークで、だれもが気軽にスケートボードを楽しむことができます。都市の景観を取り⼊れ、まちとスポーツの融合を表現する場所として誕生しました。

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    2023年8月にオープンしたNiX Urban Skate Park。2020年の東京オリンピック銅メダリストの中山楓奈さんが設計監修をしたことでも注目を集めている。

手がけるのは、富山市内に拠点を構え、社会インフラ整備をはじめとした建設コンサルタント業を営む〈NiX JAPAN株式会社〉。これまでにも同市内の〈NiXストリートスポーツパーク〉や〈村上市スケートパーク(新潟県村上市)〉、国内最大級の〈有明アーバンスポーツパーク(東京都江東)〉といった数々のストリートスポーツ施設の実績があります。ここで特筆すべきは、NiX Urban Skate Parkは完全なる自己資金での建設であるということ。

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    NiX JAPAN株式会社の代表を務める市森友明さん(右)と、当パークを設計したエンジニアの大西太和さん(左)。

設計監修のアドバイザーを務めるのは、富山市出身のプロスケートボーダーであり、2020年東京オリンピックの銅メダリストの中山楓奈さん。現在は高校生で、学校に行く前や帰りにはよくここで滑っています。オリンピアンと同じ空間でスケートボードを楽しめるというのもなかなか貴重な環境です。

NiX JAPAN代表の市森友明さんによれば、「ここで滑っていると通りから見えるので、フェンス越しに声をかけられることも多いみたいですね。中山選手自身はそうやって応援してくれる人の声がダイレクトに感じられるので、練習していてもすごく楽しい、やりがいがあると以前コメントしてくれました。我々にとってもうれしい言葉でしたね」

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    初級・中級者エリアはフラットが中心、上級者エリアはセクションが中心に構成。それぞれが溜まりやすい場所も計算されています。

パークのエリアは気軽にスケートボードを楽しめる「初級・中級者エリア」、競技志向の人にも対応できるセクションを設けた「上級者エリア」の2つにわかれており、中山選手が監修したエリアは後者にあたります。

「国内外に遠征した際、自分が楽しいと思ったようなセクションが欲しくて、アドバイザリー会議ではたくさん意見を聞いていただきました。路面もよくて初心者の方から上級の方まで楽しめるパークになったと思います。富山駅からアクセスのいい場所なので是非たくさんの人に来てほしいです」という中山さん。

同社の設計担当エンジニアの大西太和さんは、学生時代からスケートボードが趣味でずっと続けているとあって、この施設や現在の仕事には特別な思い入れがあるといいます。

「中山選手のようなオリンピック選手がこのパークから生まれてほしいという願いはもちろんあるんですけど、競技者にとっても納得のいく練習ができる環境で、かつ小さなお子さんや初めたばかりの人たちがスケートボードを好きになってもらえるように、という思いも込めています。そのためにはきちんとゾーニングする必要があって、利用する方のレベルに合わせた動線を考えて、双方にとって居心地が良くなるような環境を考えて設計しています。思い描いていたようなかたちで使っていただけているので、設計した立場としても良かったなと思っています」(大西さん)

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    新たに整備中のコンクリートのセクションも。オリンピックと同様クラスの路面は滑りやすく、材質はこだわっている。

ひとつの場所に異なるレベルや年齢の人たちが共存し空間を共有できるというのは、スケートボードというスポーツの特性であり、スケートボーダーならではのコミュニティに対する“マインド”も大きく影響しているようです。

フレンドリーかつクリエイティブ。スケートボードというスタイルの魅力

ある平日の朝にパークを訪れると、ひとりの女性が颯爽と滑っている様子が。邪魔をしないようにと思いながらも少しだけ話を聞かせてもらえないかと尋ねたところ、快諾してくれました。

―おはようございます。パークにはよく来られるんですか?(大西さん)

「はい、よく来ます。週に2、3回ぐらいですかね。もともとスケートボードはやりたいと思って持っていたんですけど、どこで滑ったらいいんだろうと思って全然やってなかったんです。それでこのパークができたタイミングからスケートを始めました」

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    朝のパークで偶然出会った輝子(てるこ)さんと当パーク設計者の大西さん。今日は仕事が休みなので、平日の空いている時間帯に滑りにきたそう。

―この場所がスケートボードを始めるきっかけになったなんて、うれしい話だなあ。僕らはこのパークをつくった者なんですよ(市森さん)

「えっ、そうなんですか! おかげでいつも楽しく滑らせてもらっています。私は神奈川県横浜市出身なんですけど、山が好きなので富山で暮らしたいと思っていたんです。それで富山の就職先を探して移住しました。このパークでけっこう知り合いも増えたので、パークがあって良かったなと思ってます。ありがとうございます」

彼女は笑顔でそう話すと、ボードを抱えて滑りに行きました。パークができてからスケートボードを始めて半年ほどになるそうで、慣れた様子で自由に楽しんでいる姿が印象的でした。細かいルールを設けずとも、ひとりひとりが思い思いに過ごすことができるパークはまさに、他者との関わり方を考えるうえでも重要なひとつの指針になりそうです。

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    「スポーツとしての側面だけでなくカルチャーにもふれることで、スケートボードの魅力をより深く理解することができる」と話す、代表の市森さん。

「スケートボードそのもののキャラクターがあると思っていて、それはすごくフレンドリーであるということ。だから上級者が初心者を排除するなんていうことは絶対にしない。お互い知らない人同士でもここで会う人たちに通じる仲間意識のようなものがあったり、気づいたら友だちになっていたり。そういうマインドがあるからこそ成り立っているのであって。オリンピックや大会を観ていてもわかるように、競う相手は敵じゃない、そういう精神がありますよね」(市森さん)

スケートボードの魅力は、競技的な側面はもちろん、本来の発祥であるストリートカルチャーの文脈から辿ることで見えてくるおもしろさもあるとふたりは話します。

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    こちらは上級者コース。

「スケートボードって、だれでも始められるじゃないですか。創造力のスポーツであり、自己表現の世界とも色濃く結びついているクリエイティブなもの。そこがやはり魅力です。ストリートから生まれるカルチャーであり、ダイレクトではなくともまちづくりやまちの魅力の要素のひとつでもあると思います」(市森さん)

「私自身もスケートボードをやるんですけど、そういう結び付きは強く感じますね。ヒップホップやアートの世界で活躍しているスケーターが多いのもそういうことなのかもしれません」(大西さん)

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    パークのすぐ近くにあるNiX JAPANオフィスのエントランスには、中山楓奈さんの使い込まれたスケートボードが展示されている。

まちなかに溶け込むパークをつくることでスケートボーダーの地位向上を目指す

これから注目したいと考えているのが、ストリートカルチャーとまちづくりの関係性といいます。市森さん自身も訪れたことがあるというアイスランドのレイキャビクでは、そのヒントを見つけました。

「レイキャビクのまちなかにあるスケートパークは、セクションをちょっと置いただけみたいなところだったんだけど、まちにいる人たちと完全に馴染んでいるというか、まちにひらかれている感じがとても心地良かったんです。スケートボードを楽しんでいる人たちの横にはオープンカフェのようなものがあって、そこではおじいさんやおばあさんがゆったりとお茶してるといった感じで」(市森さん)

まちづくりの視点でスケートボードを捉えようとしたとき、こんな例があります。フランスのボルドーではスケートフレンドリーなまちづくりを目指していて、ストリートにおけるスケートボードの禁止区域と解禁区域を看板で示し、エリアを分けしたことによってまちのスケートボーダーたちが秩序を守るようになったのだとか。

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    「カリフォルニアのサンフランシスコに『チャイナバンク(China Banks)』というスケートスポットがあるんですけど、このセクションはそこをオマージュしたものです」(大西さん)

前提として、路上におけるスケートボードの滑走は迷惑行為に該当することから禁止されていますが、一方でまちなかのスケートボーダーにとっては花壇の縁石やベンチ、階段の角は格好の遊び場となってしまう現状もあります。

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    オリンピック仕様ということで、とてもスムースなコンクリートで滑りやすいのだとか。

ボルドーの場合、スケートボード解禁区域内にある構造物の一部を大理石や鉄のアングルなどで強化するというハード面へのアプローチによって、ストリートにおけるスケートボーダーとの共存を図りました。スケートボーダーによる器物破損や事故はヨーロッパにおいても大きな社会問題であることから、先進的な対策の一例であるといえます。

こういった問題は、日本はもちろん富山市も例外ではありません。今はまちなかに「スケボー禁止」の看板が乱立していますが、NiX Urban Skate Parkができてからはまちなかを滑走するスケートボーダーは激減しました。こういったケースは珍しいそうですが、社会問題の課題解決という意味も含めて、まちなかにスケートパークをつくったという経緯もあります。

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    パーク内は道路からも見やすい。朝から夜まで開放していて入場無料。

「我々はやはり、スポーツでまちづくりに貢献したい。当然ながらマナーを守ることは大前提です。まちなかにつくったのは、まちを歩いている人の目にふれるようにすることで、スケートボードへのポジティブな理解が生まれてほしいという狙いがありました。いずれは『スケボー禁止』の看板がなくなることが、ある意味では最終的なゴールであり、新しいランドスケープなのではないかと思っています。スケートボードがこのまちの魅力のひとつになったらいいと考えています」(市森さん)

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    今年の春からは小さな子どもやビギナーを対象としたスケートボード教室も開催予定。これからもさまざまな展開が広がりそうです。

Information NiX Urban Skate Park(ニックスアーバンスケートパーク)

address:富山県富山市湊入船町(富山市総合体育館北側)
開園時間:平日 9:00~21:00、土・日曜・祝日 9:00〜22:00

credit text:井上春香 photo:日野敦友


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