歴史ある寺院、クラフトな食、豊かな自然。「井波」を在原みゆ紀がぶらり散歩
記事公開日:2024.11.27
井波彫刻の発祥である〈井波別院 瑞泉寺〉や門前町として発展した八日町通りは、井波エリアの伝統的な見どころのひとつ。一方で、近年は若者の移住者たちを中心に、パン職人が営むカフェやコーヒーショップなどが増え、新たな動きも生まれつつあるようです。新旧さまざまな手仕事と豊かな自然が融合するこのまちを、ぶらりと散策してくれたのは、モデルの在原みゆ紀さん。初めて訪れた富山県でどんな体験が待っているのでしょうか。
四季折々の景色と間近に迫る自然。〈庄川峡遊覧船〉で水上さんぽ
まずは富山の自然を肌で体感すべく、在原さんが向かったのは〈庄川峡遊覧船〉。
四季折々の景色を楽しむことができ、国内外問わず多くの観光客に人気の遊覧船です。春には山桜、夏は緑のグラデーション、ダイナミックな紅葉の秋。そして、なんといっても冬が絶景。モノクロームの雪景色の中に鮮やかな赤い橋が映え、水墨画のような世界へと誘います。
「当社は通年運航。遊覧船で冬場も運航しているところはそう多くないと思いますね。自然の景色というのは365日違うんです。よほど悪天候でないかぎり、毎日運航していますよ」(支配人 高桒正賢さん)
遊覧船のコースは、船でしか行くことのできない温泉宿として有名な「大牧温泉コース」と、短時間でも満喫できる「長崎橋周遊コース」とのふたつがあり、今回在原さんは後者を選択しました。
船内アナウンスのあとに流れてきたのは、日本最古といわれる富山の民謡「こきりこ」。ピンクとブルーのレトロな座席とも相まって、ノスタルジックな旅情を感じさせます。
別のコースにある〈大牧温泉〉とは、日本の百名湯にも選ばれた江戸時代からの歴史を持つ温泉です。昭和初期に陸路が途絶えてしまって以来、木材を曳航する船で宿泊客を送迎していました。すると「船でしか行けない秘境の一軒宿」として話題を呼び、人気が高まっていったといいます。次は遊覧船で行く温泉でゆっくりと過ごしてみたいものです。
Information 庄川峡遊覧船
address:富山県砺波市庄川町小牧73番地5
tel:0763-82-0220
料金:大人1200円、子ども600円(長崎橋周遊コース)
※季節によりダイヤが異なるため、乗船時はサイトをご確認ください。
井波彫刻の発祥となった寺院〈井波別院 瑞泉寺〉を訪ねて
彫刻師によって再建され続けてきた瑞泉寺。その表参道である八日町通りも、井波のまちのシンボルです。在原さんもぶらり散歩してみます。
八日町通り(別名:瑞泉寺前通り)を歩いていると、彫刻店と併設された工房から木槌の音が聞こえてきます。道の両側には、彫刻店や郷土玩具店、さらには酒造などが軒を連ね、それぞれの軒先には木彫の表札が掲げられており、さすが日本遺産にも認定された木彫刻のまちといったところ。
歩いていると、ふと足を止める在原さん。「ん? これは猫のおしり? 」柱の先にはとぼけた表情で魚をくわえた猫がいました。遊び心あふれる木彫りがまちのあちこちに。実はこの通り、表情豊かな猫たちの木彫りが30点近く隠れているのです。在原さんも、ついつい屋根の上や足元など見回して、小さな猫たちを写真に収めたくなってしまうようです。
そもそも、なぜ井波は木彫りのまちとして発展したのでしょうか。そのルーツを辿るべく、八日町通りを一番奥まで歩いて〈井波別院 瑞泉寺〉を訪れた在原さん。旅行先では必ず神社やお寺にも立ち寄るといいます。
「地域の人たちに親しまれている場所には、ちゃんとお参りしておかないとっていうのもありますし、神社やお寺に行くことで、その土地にまつわる歴史や文化にふれられるので」
瑞泉寺は、今から634年前に建立されました。しかしながら、天正9年、宝暦12年、明治12年の3度にわたって大きな火災に遭い、建物が焼失。2度目の火災である宝暦12年の焼失後、瑞泉寺再建のために京都の本願寺から派遣された大工や彫刻師に井波の大工たちが弟子入りしたことから、井波彫刻の歴史が始まったといわれています。
井波彫刻とは、200本以上の鑿(のみ)を使い、1本の木から彫り出す井波彫刻の伝統技術。「透かし彫り」という技法によって施された細工は精緻で美しく、圧倒的な迫力があります。太子堂の彫刻は、瑞泉寺の中でもいっそう目を引きます。
境内を歩いていると、輪番の常本哲生さんとバッタリ。瑞泉寺の歴史や、井波彫刻が生まれたきっかけなどを教えてくれました。
「あるとき子どもたちが、ひげが生えている龍と生えていない龍がいる、っていうんです。男の龍と女の龍か? と宮大工に聞いてみるも、いや違うと。要するに、完成したらそこで終わってしまうから、髭がないのはあえて未完成なのだと。後世の彫刻師たちが施しをしてくれることが彫刻の味わいであり、遊び心とはそういうところから生まれる。そうやって、井波彫刻の文化は現代まで続いてきたんです」
「井波彫刻というのは、このお寺があってこそ生まれた文化なんですね」と在原さんも感心します。
技に磨きをかけながら後世に伝えていくと同時に、先人たちの思いまで受け継いできた井波彫刻という文化。数百年前の時代を生きた人々からのギフトであり、メッセージを在原さんも受け取ったようです。
おいしくてより良い「食」を。ベーカリー&カフェ〈LAW〉
ちょっとおなかも空いて、八日町通りから歩いて5分ほどの〈LAW〉へ。天然酵母のパンや南砺産の素材にこだわった料理が味わえるベーカリー&カフェです。富山市出身の大田直喜さんがUターンし開業しました。
LAWのパンは、酵母菌を自家培養して発酵させてつくっています。酵母の種類はレーズン、ビール、ルヴァンの3種類。生地にはいっさい添加物を使用せず、シンプルな材料を中心に配合しています。また、カフェで使用するドレッシングやマヨネーズもすべて手づくり。
「お野菜盛りだくさんでおいしそう〜。彩りもとってもきれいですね。これはなんていう野菜ですか?」(在原さん)
「空芯菜ですね。こっちはシカクマメ。これはオクラです。夏だとオクラだけでも5種類ぐらいあります。手に入る野菜に合わせて考えるので、季節ごとにメニューも変わります」(大田さん)
「(野菜を食べて)すごくおいしい……! 自分が普段食べているお野菜とは味が全然違うような気がします。新鮮だからなのかな。それに、一皿でこんなにいろんな種類のお野菜を食べられるなんてうれしいです」(在原さん)
輸入にともなう環境への負荷を数値化した「フードマイレージ」も考慮し、原料や素材を仕入れる際は、価格よりも近距離の生産者であることや、農薬を使っていないことなどを意識しているといいます。
「パンの生地をつくるための湧き水も近くで汲めるんですよ。それにいい野菜をつくっている生産者さんが多いから、南砺市でお店を始めたというのもあります」(大田さん)
食にこだわる母や祖母のもとで育ち、かねてからサステナブルやエシカルといったテーマや環境問題に関心を持っていたことから、衣から食の業界へと転身。鳥取にある〈タルマーリー〉で5年間、パン職人としての修業をしました。
「そこでは天然酵母のパンとビールをつくっていて、最初はビールに興味があったのですが、いろんなきっかけがあってパンづくりを学び始めました。ちなみに、井波の〈NAT.BREW〉とコラボビールをつくって販売しているんですけど、いずれはブリュワリーも開けたらいいなと思っています」(大田さん)
Information LAW
address:富山県南砺市山見587-1
tel:0763-77-4030
営業時間:11:00〜17:00
定休日:火・水曜
〈haiz coffee〉で味わう1杯のコーヒーと物語
おいしいパンを食べたら、やはりおいしいコーヒーもしっかりおさえておきたい。それは在原さんも同じようです。八日町通りを〈LAW〉とは反対方向へ歩くこと10分。約2年前にオープンした〈haiz coffee〉というロースタリーを併設したコーヒーショップで、のんびりと過ごすことにしました。
haiz coffeeでは主に、コロンビアのコーヒー農家から豆を直接買いつけています。ホームページにはひとりひとりの生産者のストーリーが丁寧に綴られています。こちらを読むと、ひとくくりに産地だけで豆を選ぶよりも、この人がつくる豆を味わってみたい。そんなふうに感じさせてくれます。
「味以外にもコーヒーを楽しむ需要な要素があると思っています。経験やつくり手のストーリー、もちろん飲み手のそのときの気分も。カップの外も中も同じくらい重要。そうしたプロセスが集約された"人情の一杯”だと思っています」と話すのは焙煎士の清水栄治さん。
井波という小さなまちで起業し、世界へとつながる未来も見据えているようです。
「井波エリアを訪れたときに、まちの魅力に惹かれてオープンしました。これから成長する可能性の高いまちのほうがおもしろいと思ったんです。起業や新しい挑戦などもやりやすいですよね」(清水さん)
1階スペースは奥に長いつくりで、出入り口が大通りと裏通りの2箇所あります。座ってゆっくりというよりは、ちょっと腰かけるか立ち飲みがいい雰囲気。カウンターで注文してさっとテイクアウトにも最適です。在原さんもテイクアウトでコーヒーをいただいて、1日を振り返る時間となりました。
Information haiz coffee
address:富山県南砺市本町3-35
営業時間:12:00〜17:00
定休日:水曜
木彫のまちとして有名で伝統も色濃く残っている井波エリア。一方で若者の移住者が多く、こだわりの強いお店がたくさん集まっています。このまちは門前町であり、両者をつないでいるのは、やはり瑞泉寺かもしれません。
旅先では必ずまちのお寺や神社を訪れるという在原さんも「まちの本来の姿というか、雰囲気もわかるような気がするんですよね」と言います。
緑と水という自然を浴び、伝統文化を知り、若者の暮らしもある。小さなエリアにギュッと凝縮された、実りのある“散歩”となったようです。
Profile 在原みゆ紀
ファッションモデル。1998年生まれ、千葉県出身。メンズウェアをバランスよく取り入れたオリジナルな着こなしや明るく自然体な人柄が支持され男女問わずにファンを持つ。男性誌、女性誌、広告やブランドディレクションなど幅広く出演依頼が舞い込み、最近は国内にとどまらず韓国でも活動中。
credit text:井上春香 photo:松木宏祐 hair & make:ボヨン styling:中井彩乃
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