射水市・内川沿いに佇むヴィーガンカフェ〈8ablish TOYAMA〉が考える「食と農」
記事公開日:2024.05.29
まちの「ランドスケープ」をつくるカフェ
富山県射水市の中央を流れる「内川」は、ここ数年で空き物件をリノベーションした多くのお店がオープンし、注目されているエリアです。その内川沿いに、2024年3月に移転オープンした〈8ablish TOYAMA〉。まず、目をひくのが建物の外観。目の前の川に停まっている漁船の色からイメージを抽出したという淡いパステルグリーンの壁が、内川の雰囲気や景観に調和しながら溶け込んでいます。その一方で、瓦屋根とのコントラストが実にユニーク。
8ablish(エイタブリッシュ)は、クリエイティブ・ディレクターの川村明子さんが2000年に東京・南青山にオープンした〈カフェエイト〉を前身とするヴィーガンカフェの草分け的存在。ヴィーガンとは、菜食主義者のなかでも、卵や乳製品含め動物性食品を一切食べないこと。「Universal Preasure for Everyone(愉しみをすべての人に)」をコンセプトに、カフェやビストロ、パーラーといったさまざまなかたちで、ヴィーガンのスタイルを伝え続けています。
現在は、東京・麻布台ヒルズ店と富山のファクトリーショップの2店舗のみ。富山店は、豊富な海の幸が揃う〈新湊きっときと市場〉内のヴィーガンカフェとして3年前にスタートし、看板商品の「ヴィーガンアイスクリーム」は、オンラインストアでも販売していることから全国的な人気を集め、アイスクリームの製造拠点としての役割も担ってきました。その後、内川沿いに移転オープンしました。
そもそもなぜ、東京が拠点のエイタブリッシュが富山に店舗を構えることになったのでしょうか。その理由は、エイタブリッシュの川村さんと射水市を拠点に事業を行う〈北陸ポートサービス〉の加治幸大さんとの出会いにありました。
「加治さんとの出会いは、パッケージデザインの相談をしてもらったのがきっかけです。そのときに、地域活性化を目的とした事業に取り組んでいることを知り、仕事に対する熱い思いが伝わってきて、一緒にプロジェクトに取り組むことになりました。
富山にはまったく縁のなかった私が、東京以外では考えていなかったお店を構え、今は自宅兼アトリエという第二の拠点までつくってしまっているのだから自分でも驚きです。そのぐらい射水のまちや人に、強く惹かれるものがあったからだと思います」(エイタブリッシュ代表 川村明子さん)
「当社はもともと港内の清掃や整備を請け負う会社として、祖父が創業しました。その後、2代目の前社長が港の外まで事業を広げ、私で3代目になります。
地域に関わるさまざまな仕事を行うなかで、現在は土づくりや堆肥づくりにも力を入れていて、そこで密接に関わってくるのが農業であり食べもの。これらをどうやって伝えていこうかと思ったときに、川村さんとの出会いがあり、考え方も共感する部分が大きかったんです」(北陸ポートサービス代表 加治幸大さん)
土は、私たちの生活に欠かせないものでありながら、媒介するものがないと大切さを実感するのはなかなか難しいもの。それらを伝えるために「農」や「食」に着目し、野菜という素材に特化したヴィーガンカフェ、エイタブリッシュが射水のまちにやってきた、というわけです。
多様な社会における食の選択肢としてヴィーガンが「当たり前」になる時代
「ヴィーガンである以前に、ナチュラルもしくはオーガニックであることを目指しています。お店で使う素材はほとんどナチュラルなものを選んでいます」(川村さん)
“私たちがヴィーガンを選択するのは 最も多くの人が同じ食卓を囲み 豊かな食事と時間をシェアできるから” とホームページにもあるように、アレルギーを持つ人や、宗教上の理由などで食スタイルが違う人同士でも一緒に食事を楽しめる、ポジティブな選択肢がヴィーガンだったといいます。
さらに意識したのは、動物性の食材や小麦を使っていないにもかかわらず、ヴィーガンではない人でも物足りなさを感じることなく、おいしくて楽しいクリエイティブなフードでもあるということ。
「最初に始めたお店も、入り口はおしゃれでワクワクするようなカフェがある。それが実はヴィーガンだったという順番で広まっていったんですけど、私はそれが良いと思っています。
当時はサブカルチャー全盛期の時代ということもあって、シェフはレゲエやダブといった音楽をやっている人たちでもありました。その流れでカフェでイベントを始めたりするうちに、音楽やカルチャーを通じてヴィーガンへの理解が深まっていった感覚があります」(川村さん)
国際化や多様な社会における食の選択肢として、今やヴィーガンはワールドスタンダード。それはエイタブリッシュのお店を構える東京でも富山でも、等しくあるべきだと考える川村さん。海外からの観光客も増えている今、全国的にも求められているといいます。
「せっかく日本に来て食べることを楽しみにしていても、選択肢がないのは残念ですし、私たちも本当の意味でのおもてなしができていないということになりますよね。世の中には、違った背景や価値観を持つ人たちがいます。エイタブリッシュを通じて、多くの人にとってのより良いきっかけづくりを担っていけたらいいなと思っています」(川村さん)
豊かな食に恵まれた富山という土地に、ヴィーガンという食の選択肢が存在することは、住む人にとっても訪れる人にとっても大きな意義があります。
楽しさを見出し、つくっていくことで射水のまちを「ずっと」好きになる
北陸ポートサービスが運営する、射水市を拠点としたまちづくりのプラットフォーム「imizutto(イミズット)」。エイタブリッシュはその一環であり、リノベーションされたこの店舗も、イミズットの拠点になります。2階はギャラリーなどのスペースになるべく現在リノベ中です。
「Play Well, Learn Well〜よく遊び、よく学べ」をコンセプトに掲げ、暮らしに必要な要素を融合させた場をつくり発信することを目的としています。射水(いみず)」と「ずっと」をかけ合わせた造語であり、「このまちが好き」「このまちにずっといたい」と子どもたちが思えるようなまちづくりを目指したいという思いから名づけたのだそうです。
「子どもが生まれたときに、この子たちにはどんな未来が待っているんだろう? と思ったことがあって。戦争や新型コロナウイルスといった思いもよらないことが次々と起こる今の時代において、自分たち自身が楽しく生きられるかどうかがとても大切なことだと考えるようになりました。
楽しさっていうのは、今この瞬間だけを楽しむのではなくて、より良い未来に向かっていこうとする姿勢にある。そういうことを、もっとやらなきゃいけないなと考えるようになりました」(加治さん)
「初めて富山を訪れたときの印象は、立山連峰すごいなとか、自然のすばらしさに感動していたんですけど、今、一番の魅力は何かと聞かれたら、やっぱり人ですね。加治さんたちに出会ってから、地域のことを真剣に考えている人がたくさんいることを知りました。まちの魅力っていうのは結局、そこにいる人がつくっているんだと思います」(川村さん)
自分たちが暮らすまちは、自分たちで楽しくしていく。人が集うことで文化が生まれ、この先100年続いていくような未来のあらゆる人にとっての故郷をつくりたい。射水の魅力を伝えるための場づくりから始まった、「imizutto」という拠点でありプロジェクト。内川沿いにエイタブリッシュができたことで、同じような考えを持つ人たちが集まってきてくれたら、とふたりは話します。
「目の前に流れるこの川をただただ眺めているだけで、何時間でもいられるんですよ。焚き火をしているときの感覚に近いというか、不思議な魔力がある。そういうのって、普通の観光をしただけでは気づかないし、味わえないと思うんです。
射水のポテンシャルや隠れた魅力をどんどん掘り起こしていくことで、今の子どもたちが大人になる頃には、もっと楽しげな風景が広がっているはず。そこにはきっと私たちも存在していて、川沿いでのんびりワインでも飲んでいるんだろうなと(笑)。まだまだこれからが楽しみですね」(川村さん)
Information 8ablish TOYAMA(エイタブリッシュ トヤマ)
address:富山県射水市立町14-2
tel:0766-82-3001
営業時間:9:00〜17:00
定休日:不定休
Information コロカル
※日本のさまざまな場所とつながり、新しい日本の魅力を発見するウェブマガジン『コロカル』では、月刊特集『エリアリノベのススメ。』にて、射水市の新湊内川エリアのリノベ事例を紹介しています。こちらもご覧ください。
credit text:井上春香 photo:竹田泰子
Recommended Articles
富山県公式サイトの注目記事
Recommended
Articles
富山県公式サイトの注目記事
Next feature article
次に読みたい記事