木彫りのまち・井波にひらかれた宿〈Bed and Craft〉で、在原みゆ紀が体験する3つのこと-1
背景の山のシルエット

木彫りのまち・井波にひらかれた宿〈Bed and Craft〉で、在原みゆ紀が体験する3つのこと

記事公開日:2024.11.08

富山を代表する工芸のひとつであり、250年以上の歴史を持つ「井波彫刻」。粗彫りから仕上げまで、何種類もの鑿(のみ)や彫刻刀を駆使して掘り上げる高度な技術が、緻密かつ立体的な躍動感あふれる作品に表れています。彫刻師や職人による手仕事を体感すべく、まずは南砺市・井波へ。体験するのは、学生時代に日本の伝統文化を学んでいたこともあるというモデルの在原みゆ紀さん。初めて訪れる富山。このまちで、どんな出会いが待っているのでしょうか。

本格的なものづくりにふれられる職人の工房で「弟子入り」体験

  • 本格的なものづくりにふれられる職人の工房で「弟子入り」体験-0

    井波のまち並み。通りには木彫の工房が軒を連ね、歩いていると木槌の音が聞こえてくる。

井波彫刻の発祥でもあるお寺、瑞泉寺から歩いて10分ほどの場所にある〈Bed and Craft〉は、「職人に弟子入りできる宿」がコンセプトの新しいスタイルの宿泊施設。1日1組限定の6つの宿を拠点に、まちに点在する職人の工房でワークショップを体験することができます。

  • -0

    2016年にオープンした〈Bed and Craft〉。古民家を改修したモダンな空間だ。

さらに特筆すべきは、職人の仕事場で普段から使っている道具を使い、本格的な技術を学べるということ。Bed and Craft(以下、BnC)では、木彫りのスプーンや豆皿、漆の箸など5つの「弟子入り」体験プランがあり、それぞれに担当する「親方」がいます。

  • -0

    木彫版画の親方は、彫漆家・加茂薫さん。

在原さんが体験するのは「木彫りの版画」。大人から子どもまで楽しめる人気のプランです。親方である彫漆家・加茂薫さんの〈加茂彫泉堂〉を訪ねると、「おはようございます。お待ちしておりました!」と明るく出迎えてくれました。

  • -0

    彫漆(ちょうしつ)とは、色漆を何層も塗り重ね、その上からノミで彫ることで模様や絵柄を表現する技法のこと(左下の作品は木彫版画の見本)。

井波で生まれ育ち、明治時代から続く井波彫刻の後継者でもある薫さんは、幼い頃から祖父であり3代目の加茂蕃山さんの影響で彫漆(ちょうしつ)に興味を持ち、4代目である父の元で木彫と彫漆の修業を始めました。

  • -0

    工房の作業台に並ぶ彫刻刀やノミは、ゆうに200種類以上はある。

はじめにお互いの自己紹介をし、体験の流れについて説明を受けます。そして版画のデザインを決めていきます。図案集から選ぶこともできますが、事前に下書きを用意しておくと当日がスムーズです。

「デザインは迷ったんですけど、なにせ初心者なもので……。私が飼っている犬の名前にしたいなと思っていて、カタカナで “アル”でもいいですか?」(在原さん)

「素敵ですね。いいと思いますよ。では、用意してもらった下書きのデザインをトレーシングペーパーで版木に書き写していきましょう」(加茂さん)

  • -0

    版木のデザインは、在原さんの愛犬の名前である「アル」に決定。

彫刻刀の持ち方や使い方、注意点などを確認したら、さっそく彫り始めていきます。まずは文字のアウトラインから。その後、内側の部分を彫っていきます。

  • -0
  • -0

「彫刻刀を使うのなんて、何年ぶりだろう。久々すぎて記憶が……(笑)。でも、日本の義務教育のなかでこういう授業があるっていうのは、なかなかすごいことですよね」(在原さん)

  • -0

「おっしゃるとおりで、海外から訪れる宿泊客の多くは、実際に彫刻刀にふれるのも初めてという方がほとんどなんですよ」(加茂さん)

  • -0

    器用に手を動かす在原さんに、「道具の使い方が上手ですね」と加茂さん。文字の部分の完成が見えてきた。

工房にある彫刻刀やノミの刃の長さがそれぞれ異なるのは、常に研ぎながら使っているからだそうで、職人の最初の仕事は「道具をつくること」から始まるのだといいます。

  • -0

「祖父の代からずっと使っているものもありますが、たいていの職人はまず、自分の道具を自分でつくるんですよ。使いやすいように工夫したり研いだりする練習をしているうちに、あっという間に半年くらいはかかってしまいます。なので、作品をつくれるようになるにはもっと時間がかかります」(加茂さん)

「私が小学校のに使っていたものと比べると、加茂さんの彫刻刀は刃の部分が長いんですね。それに刃がスッと通って、そこまで力が要らないというか。やっぱり手入れしながら大切に使われている道具だからでしょうか」(在原さん)

  • -0

途中で休憩を挟みながら彫り進め、ついに版木が完成。最後に「もう少し深さがあったほうがいいかも」と、加茂さんが仕上げをしてくれました。

次に、色を決めて「色摺り」の工程。好みの色ができるまで絵の具を調合していきます。単色はもちろん、複数の色を組み合わせることもできるそう。

  • -0

    「アルは黒のシュナウザーだから、あえてかわいい色に」と在原さんはピンクをチョイス。

  • -0

    版木に水を染み込ませてから、定着させるために糊を混ぜた絵の具をのせていく。

  • -0

    バレンを手に「うわ、懐かしい!」と在原さん。版木に和紙をのせ、紙の上で円を描くように擦る。

さあ、いよいよ和紙をめくる瞬間です。はたして仕上がりはいかに。

  • -0

できあがった作品を満面の笑みで見せてくれる在原さん。「おぉぉ〜!」という歓声と同時に、周囲で見守る人たちからは拍手が。

  • -0

「ちょっとかすれた感じも和紙ならではの味があって好きですね。それに自分で彫ったと思うと、なんだか愛着も湧いてきます」(在原さん)

3時間かけて行う本格的な体験のあとは、庭を眺めながら抹茶をいただいてほっと一息。職人という存在の偉大さを肌で感じるとともに、その仕事の厳しさや奥深さを想像するのでした。

  • -0

    合間の休憩や体験後には、抹茶とお菓子をいただける。

Information 木彫りの版画

料金:13000円(1名あたり)
定員:4名(最少催行人数2名)
対象年齢:10歳以上
所要時間:3時間
場所:加茂彫泉堂(蕃山工房)
※体験のみの予約は不可。BnC宿泊者限定の有料オプションとなります。

つくり手の世界観を空間全体に表現した「一棟一職人」のギャラリーのような宿

  • つくり手の世界観を空間全体に表現した「一棟一職人」のギャラリーのような宿-0

    チェックインは、ホテルから少し離れた本町通りにある〈BnC LOUNGE〉で。

Bed and Craft(以下、BnC)は、南砺市に拠点を構える〈コラレアルチザンジャパン〉が運営する分散型のホテルです。

  • -0

    チェックイン時に立ち寄るラウンジには、木彫作品のほか、井波の職人の手仕事を活かした設えが施されている。

  • -0

    エントランスを抜けると、木彫家・前川大地さんの作品と目が合う。

日本に古くから存在する「お抱え職人」文化を再興し、職人との新たな価値創造をコンセプトに掲げるクリエイティブ集団でもある同社。富山市出身の山川さんが井波を訪れた際に井波彫刻にふれ、木彫家の田中孝明さんと出会ったことがきっかけで、この「職人に弟子入りできる宿」が生まれました。

  • -0

    館内の案内のほか、まちの魅力や歴史についても詳しく教えてくれたのは、コンシェルジュの白樫明士さん。

  • -0

    あたたかいクロモジ茶と一緒に出していただいたのは、高岡市の老舗和菓子店〈大野屋〉につくってもらったBnCオリジナルのラムネ。偶然にも、弟子入り体験でお世話になった加茂薫さんが木型を手がけているというから驚き。

関連記事|高岡市の老舗和菓子店〈大野屋〉

「井波には木彫をはじめ、さまざまなものづくりを行う作家がいます。なかでも彫刻師の割合は、人口8000人に対して約200人。現在BnCには6棟の宿がありますが、木彫や漆芸、陶芸、作庭など、棟ごとに異なる作家が手がけた作品を展示するギャラリーとしての機能も持っています」(白樫さん)

「このまちには、そんなにたくさんの作家さんや職人さんがいるんですね。私が泊まらせていただくお部屋がどんな空間なのか、とっても楽しみです」(在原さん)

  • -0

在原さんが宿泊するのは、かつて格式の高い料亭だった「KIN-NAKA」。木彫家の前川大地さんが手がける空間には、天井の大きな木彫りのシャンデリアや和室の松竹梅をモチーフとした作品など、見どころがたくさんあります。

  • -0

    天井を見上げると、前川大地さんによる木彫りのシャンデリア。

  • -0

    1階の和室。松竹梅をモチーフにしている空間の壁にはある仕掛けが。

  • -1

    小さな扉を開けると窓の外には松の木が見え、「松竹梅」が完成するという作品。「なるほど! すばらしいアイデアですね」と在原さん。

歴史を感じる建物や空間のディテール、工芸の美しさにふれながらも、清潔感のあるバスルームや使い勝手のいいキッチンなど快適性も兼ね備えています。

  • -0

    階段の手すりの一部も木彫の作品。鑿(のみ)の跡が美しい。

館内に展示されている作品は、それぞれの作家から提案されたものであり、宿泊者は購入することができるのだそう。さらには「マイギャラリー制度」という、宿泊料の一部を担当作家に還元する独自の制度があり、これによって作家の活動を支持するとともに、宿泊者とのつながりを生み出しています。

  • -0

    2階の寝室にはキングサイズのベッド。着心地のいいルームウエアがあるのもうれしい。

  • -0

Information Bed and Craft

address:富山県南砺市本町3-41(BnC LOUNGE)
チェックイン:16:00〜21:00
※BnC LOUNGEにて。宿泊棟とフロントの場所が異なります。今回宿泊した部屋はKIN-NAKA
チェックアウト:11:00
料金(KIN-NAKA):19000円〜(1人あたり/朝食付) ※2名利用時の金額。子ども料金あり。

〈nomi〉で味わう創作イタリアンと木くずを活用してつくる燻製料理

  • 〈nomi〉で味わう創作イタリアンと木くずを活用してつくる燻製料理-0

BnCでは料理の楽しみ方もいろいろ。近隣には提携しているレストランもあり、フレンチなら〈ランソレイエ〉、お部屋でゆっくりと日本料理を愉しむなら井波の会席料理店〈旬菜しふく〉のコースもあります。今回は夕食付きプランでの予約のため、創作イタリアンと燻製料理がいただける〈nomi〉へ。

  • -0

    創作イタリアンと燻製料理のレストラン〈nomi〉。BnCのチェックインラウンジと併設している。

  • -0

    「富山魚のグリル 黄金色のタップナード」と「庄川柚子の香りベッカフィーユ」。スターターコースは3600円(ドリンク別)。

  • -0

    料理が運ばれてくると「おいしそう〜」と在原さん。食べることが好きで、普段はお酒もよく飲むのだそう。

nomiのメインシェフを務めるのは江澤哲さん。メニューはフルコースのほかスターターというショートコースもあり、今回はスターターとアラカルトを組み合わせるかたちに。前菜は季節果実のパテドカンパーニュ、富山鮮魚のカルパッチョ、昆布締め野菜のバーニャカウダなど。旬の野菜と魚と肉がいずれもバランス良く構成されています。

  • -0

    「いただきまーす!」とパクリ。

「富山って、蟹やお魚のイメージが強かったんですけど、野菜もお肉もなんでもおいしいんですね」(在原さん)

このレストランでぜひ味わってみてほしいのが「燻製鍋」。定番のベーコンのほか、里芋や枝豆などの野菜、南砺卵に五箇山豆腐、昆布締めのホッケなど、地のものが凝縮された燻製の盛り合わせです。

「お部屋にあった、燻製ポテトチップスもすごくおいしかったです。食べ応えがしっかりあって病みつきになりそうな味でした」(在原さん)

燻製のチップには木彫の過程で出る木くずを活用しており、木彫りのまちの職人とレストランが生み出す小さな循環を垣間見ることができます。

  • -0

    地元の食材を取り入れた、BnC特製朝食ボックス。

  • -0

    朝の〈KIN-NAKA〉。夜の雰囲気とはまた違った佇まい。

BnCに宿泊するなら、朝食付きプランをおすすめします。フレッシュな野菜と季節の果物にヨーグルト、あたたかいスープ、井波で人気店のパン屋〈baker’s house KUBOTA〉のパン、そしてコーヒーをのんびりと味わう朝は、なんとも至福のひとときです。

Information nomi(BnC LOUNGE併設)

address:富山県南砺市本町3丁目41
営業時間:ディナー18:00~22:30(21:30L.O.)
定休日:月・火曜

「初めて富山を訪れて、なかでも井波というエリアでは、古いものの魅力はもちろん、それを残そうとする人たちの情熱を感じました。職人の方やまちに暮らす人とふれ合ったことで、自分にとっての富山のイメージがくっきりしてきたような気もします。地域の歴史もまちの風景も、人がつくるものなんだとあらためて実感しました」(在原さん)

人の手から生まれるものには、昔も今も変わらない魅力があります。歴史をつくるのは人、と在原さんが語るように、これまで受け継がれてきた日本の伝統文化や技術にはひとつひとつ物語があるのです。まちを歩きながら、ものづくりの気配を感じてみませんか。

Profile 在原みゆ紀-1

Profile 在原みゆ紀

ファッションモデル。1998年生まれ、千葉県出身。メンズウェアをバランスよく取り入れたオリジナルな着こなしや明るく自然体な人柄が支持され男女問わずにファンを持つ。男性誌、女性誌、広告やブランドディレクションなど幅広く出演依頼が舞い込み、最近は国内にとどまらず韓国でも活動中。

credit text:井上春香 photo:松木宏祐 hair & make:ボヨン styling:中井彩乃


この記事をポスト&シェアする


背景の山のシルエット

Next feature article

次に読みたい記事

TOYAMA
Offical Site

富山県の公式サイト