- posted 2026.03.23
- tags
- #well-being
夢を仕事に、自然と生きる。東京から南砺市利賀村へ移住したYouTuber後藤正悦さん、陽子さん夫妻の暮らし。
記事公開日:2026.03.23
- posted 2026.03.23
- tags
- #well-being
富山県南砺市利賀村の山奥にある、古民家を改装した『源流居酒屋』。店主が山や川に入り、自ら手に入れた食材で料理をつくる、完全予約制の居酒屋です。
店を営んでいるのは、後藤正悦さん、陽子さん夫妻。
自然や山遊びの魅力を発信するYouTuberの顔も持っています。二人とも、かつては東京で暮らす会社員でした。利賀村に移り住み、築150年の古民家を改装し、さらには長年の目標だった居酒屋を開きました。
二人の暮らしが、今、多くの人から関心を集めています。
山奥の暮らしに夢を描き、東京から南砺市利賀村へ
利賀村に移り住む前、二人は東京の一般企業で働いていました。
正悦さんは医療機器メーカーの営業部長という責任ある立場で、日々、大きなプレッシャーと向き合っていました。仕事は順調でしたが、やがてその重圧が、心身へ積み重なっていきました。
「このままずっと、会社に勤め続けるのだろうか」。そんな疑問が膨らみ、陽子さんに「仕事を辞めて、居酒屋で起業したい」と打ち明けました。すると陽子さんは、迷うことなく「やりたいことをやったらいいよ」と力強く背中を押したと言います。
その言葉に背中を押されて、正悦さんは50歳のときに長年勤めた会社を退職します。目標は移住して居酒屋を開くことでした。
ところが移住先と開業場所を探している最中、コロナ禍に突入し、思うように動けなくなりました。そこで、まずは移住先だけでも決めようと考え、東京・有楽町にある『ふるさと回帰支援センター・東京』に何度も足を運び、全国の担当者の説明を聞き続けます。
そんななか参加したのが、富山県主催の移住支援セミナーでした。当時の正悦さんの最大の課題は、移住後の収入源。富山県の移住支援は、求人企業の紹介もセットになった手厚い内容でした。
しかし正悦さんには、再びスーツを着て働く姿がどうしても想像できません。そこで紹介されたのが、利賀村に拠点を置く林業を営む事業所だったのです。
利賀村は、後藤さん夫妻がそれまで見てきた移住候補地とは大きく世界が違いました。
「それまで見ていたのは、人口減少や高齢化で、かつて賑わっていた商店街がシャッター通りになったような場所ばかり。ですが利賀村は、この道を進んだ先に、本当に人が住んでいるのだろうかと思うほど山深い場所だった」と正悦さん。陽子さんは「まるでトトロが出てきそうな風景で、自然の中に古民家がぽつりぽつりと建っていて、その姿がとても美しかった」と振り返ります。
現地では住民の家を訪ね、暮らしぶりを聞く機会もありました。そうした交流が、利賀村を深く知り、移住を決める大きなきっかけになっていきます。
2021年に正悦さんが利賀村へ移住。翌22年には陽子さんも東京でのデザインの仕事に区切りをつけて合流しました。
正悦さんが先に移住したのは、林業の仕事に就くためもありましたが、もうひとつ大きな目的がありました。二人が暮らす古民家を、生活できる状態に整えることです。
ところが改装を始めると、建物の劣化は想像以上。「床を剥がしてみたら、シロアリで木が腐っていて基礎を丸ごとやり直すことに。壁と屋根の間の隙間をふさいだり、断熱材を入れたり、必要な作業があり過ぎて終わりが見えなかった」と当時の苦労を語ります。
それでも移住を決めた以上、手探りで進めるしかありません。正悦さんはパソコンの無料ソフトで間取りを考え、材料を計算しながら、改装に取り組みました。
改装の様子をYouTubeやSNSで発信していると、思いがけない反響がありました。山奥での大変な状況を面白がってくれる人が現れ、県外の視聴者や友人らが手伝いに来てくれるようになったのです。そのなかには電気工事士やタイル職人、水まわりの専門家など、その道のプロが何人もいました。
多くの人の力を借りながら、ボロボロだった古民家は少しずつ住める家へと姿を変えます。陽子さんが利賀村で在宅ワーカーとして暮らし始めてからも、改装の日々は続きました。
山遊び、YouTubeの発信から生まれた暮らし
もともと後藤さん夫妻は、山遊びの達人です。東京で暮らしていたころから、休日になると山奥へ分け入り、源流を目指して何時間も歩くのが二人の一番の楽しみ。その姿をYouTubeで発信してきました。
魚を釣り、山菜やきのこを採り、焚き火で調理して食べ、そのまま野営するという、まるでサバイバルのような遊び方です。
源流に向かう道のりや、食材を手に入れる瞬間、野営とは思えないほど豪華な正悦さんの手料理などを、YouTubeの「源流居酒屋よーこ」チャンネルで紹介してきました。この様子が多くの人の関心を集め、YouTubeの登録者数は現在、9.93万人(2026年3月時点)に。
人工物のない山奥での時間について、正悦さんは「遊びではあるんですが、生き抜く力を試しに行くような感覚。人間の根源や本質、源流に立ち返れるとき」と表現します。
二人が出会ったのも、やはり山でした。正悦さんは、少年時代からスポーツに打ち込み、体を動かすことが好きでした。大人になってからは仕事のストレスを解消するため、屋外でひとりでできる遊びを探すようになります。「ひとりになりたい」という気持ちはさらに強まり、気づけば足は山奥へと向かっていました。
一方の陽子さんも幼いころから自然に親しんできました。大学ではワンダーフォーゲル部に所属。もっと山を楽しもうと考え、山での釣りを教わったのをきっかけに、源流へ向かうようになります。
そうして山の中で出会った二人は、やがて一緒に、さらに奥深い山へと分け入るようになっていきました。
陽子さんは、東京に住んでいたころから「歩いて5分のコンビニに行くよりも、6時間かけて山に行く方が多かった」と明かします。そのため現在の住まいがスーパーまで遠いことを嘆くことはありません。「買い忘れがあっても、あるもので工夫できる性格」と笑います。むしろ山がすぐそばにあることの方が便利で魅力だと感じているのです。
こうした柔軟さは、自然に囲まれた利賀村で過ごすようになって、より磨かれていきました。
自然と人に支えられる『源流居酒屋』
二人が暮らす古民家では、今、正悦さんの長年の夢だった『源流居酒屋』が営まれています。
料理に使う食材の多くは、二人が自分たちの体を使って手に入れたものです。利賀の渓流の川魚や、山で採れる山菜やキノコ、そして自家菜園の野菜。さらに富山湾の浜辺からゴムボートを出して釣った魚など、自然の恵みを主役にした料理ばかりです。
訪れるお客さんの多くは、YouTubeや地元新聞の連載を通して二人の暮らしを知り、この場所を目指してやって来る人たち。いわば、二人の生き方に惹かれたファンのような存在です。
「料理を食べてもらうだけでなく、薪ストーブを囲んで、一緒に話したり、お酒を飲んだりする時間を大切にしている」と正悦さん。チャンネル登録数10万人のYouTubeの影響は大きく、「『源流居酒屋』を目的に、初めて富山を訪れた」と口にする人も珍しくありません。地元の宴会や集まりに使われることもあるそうです。
「利賀村で暮らすようになって、東京にいたころに抱いていた将来への漠然とした不安が消えた」と二人は言います。「ここはお金があれば何でも手に入るような場所ではなく、自分の力が生きることに直結している。無いものはつくる、壊れたら直す。源流での遊びと同じで、目の前の課題を解決する知恵と根気、互助扶助がないと生きていけません」と正悦さん。
今は、自分の好きなことを突き詰めて、日々の暮らしそのものを楽しんでいます。
近所の人たちは、除雪のことや山の水の引き方など、ちゃんと冬を越せるかを気にかけてくれ、屋根に雪が積もれば「そろそろ雪下ろしだぞ」などと声をかけてくれると言います。居酒屋を開くときも、もともと地元にあった飲食店の人が「一軒ぽつんとあるよりも、二軒の方がいい。どんどんやって」と応援してくれました。
「田舎は閉鎖的な場所かもしれないと不安に思っていたけれど、ここの人たちは開かれています」と陽子さん。そして正悦さんも「初対面の人も、『新聞(※地元の新聞で、コラム「源流居酒屋 たいしょーとよーこの山暮らし」を連載中)を読んだよ』と声をかけてくれる人がいて、温かい人が多い」と話します。
利賀村で古民家を改装できたことも、『源流居酒屋』を開いて集客があるのも、YouTubeの存在が大きかったと二人は実感しています。「これからも、暮らしの楽しさを発信したい。県外の人だけでなく、富山の人ですら知らない、実際に暮らさないと分からないような魅力がここにはたくさんある」と正悦さん。
ここには、移住を考えている人、会社を辞めて新しい挑戦をしたい人が話を聞きに訪れることも少なくありません。山奥の居酒屋は、いつの間にか人生を変えたい人が集まる場所にもなっていました。「田舎暮らしの先輩として、これからも経験を伝えていきたい」と二人は語ります。
利賀村の居酒屋で、誰かの新しい人生の源流が生まれているのかもしれません。
Profile 後藤正悦、陽子(ごとうしょうえつ、ようこ)
正悦さん 1969年北海道生まれ。陽子さん 宮城県生まれ。2021年南砺市利賀村に移住。築150年ほどの古民家を知人の手を借りながら改装。2022年から『源流居酒屋』を営みながら暮らしている。YouTubeチャンネル「源流居酒屋」の登録者数は9.93万人(2026年3月現在)。
credit text:高井友紀子 photo:京角真裕
Recommended Articles
富山県公式サイトの注目記事
Recommended
Articles
富山県公式サイトの注目記事
Next feature article
次に読みたい記事