有機的フォルムに宿る生命の気配。「ガラスの街とやま」で生まれたYuri Iwamotoさんの表現。-1
背景の山のシルエット

有機的フォルムに宿る生命の気配。「ガラスの街とやま」で生まれたYuri Iwamotoさんの表現。

記事公開日:2026.03.18

富山はガラス造形が盛んで、ガラスアートに触れられる環境が広がっています。富山市中心部には、ガラスに特化した『富山市ガラス美術館』。そしてホテルや公共施設には、ガラス作品が設置された場所も。市街地から車を15分ほど走らせれば、「ガラスの街とやま」の核となるガラス作家を育てる『富山ガラス造形研究所』と、子どもから大人まで楽しく制作体験できる『富山ガラス工房』が立ち並んでいます。

こうした地域性もあり、富山にはたくさんのガラス作家がいて、Yuri Iwamotoさんもその一人。富山の風土に根差し、ガラスの可能性に向き合いながら創作活動を続けてきました。

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「ガラスの街とやま」が育む創造。

Yuriさんの作品は、有機的なフォルムが特徴で、見る人に力強い生命感を想起させます。「空間に影響を与えるものを作りたい」と語るように、置かれる場所の雰囲気を変える存在感を放ち、鮮烈な印象を残していました。

ガラスという硬い素材でありながら、単なる物質を超えて、生き物のように躍動するような力、柔らかな表情を持っているのが魅力です。

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    ザクロをイメージした作品。赤い透明なガラスの内部に、小さな球状のガラスが入っている。

近年は雑誌やWebへの露出機会も増え、国内で暮らす外国人やインバウンド、これまではガラスに関心を持たなかった若年層にも支持されています。首都圏での展示も年数回行われ、常設で扱うショップが増えてきました。

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立山連峰の自然、身近な花や果物と呼応するフォルム。

創作の原点にあるのは富山の暮らしの中で目にする景色で、とりわけ大きな存在なのが、北アルプス・立山連峰。富山は天候に恵まれると県内各地から立山連峰を望め、Yuriさんの家の側からもその雄大な姿が見えます。

「崇高で堂々とした佇まいを見ていると、人の力では抗えない自然の偉大さを感じ、私も技術でガラスの形を制御したり飼い慣らしたりするのではなく、溶けたガラスの元気なエネルギーをそのまま形にしたいと思う」と語るYuriさん。

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    雄大な北アルプスがすぐそばに広がっていることが、創作に大きな影響を与えている。(Yuriさん提供)

父親の影響で、Yuriさんにとって子どもの頃から身近な、山。富山に来てからも、剱岳や大日岳に登り、ガラスを通して知り合った友人と山遊びに出かけることもあるそうです。

毎年夏に北アルプスの山小屋でアルバイトをするほど、自然の中で過ごす時間を大切にしているYuriさん。作品には、登山や山歩きで見かけた高山植物や山野草、近所の公園の花壇に咲く花、季節の果実が登場し、それぞれが持つ自然な形や色彩、輝きがちりばめられていました。

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    山歩きして、多彩な植物や風景を目にしている。(Yuriさん提供)

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    山歩きして、多彩な植物や風景を目にしている。(Yuriさん提供)

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    山歩きして、多彩な植物や風景を目にしている。(Yuriさん提供)

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    山歩きして、多彩な植物や風景を目にしている。(Yuriさん提供)

作品づくりはスケッチを描くことから始まります。「家では勉強できないタイプ」だそうで、近所のカフェや喫茶店へ出かけ、クロッキー帳を開きます。

展示するときは「ただ作品を置くだけではなく、場所と作品につながりや相乗効果をイメージしている」とのことで、展示場所ごとにテーマを決め、それに沿ってペンを走らせると言います。

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    この日は『富山ガラス工房』内にあるカフェ『Glass&cafe Clie』でスケッチを描いた。

手の動きを加速させるのに役立っているのが、過去に作ったカラフルなガラスパーツ。クロッキー帳の横に置かれたパーツは、果物の種子や蕾に見えるものがあったり、花びらや貝ひものような形のものがあったり。Yuriさんの手にかかれば小さな欠片さえ、生命の気配を秘めているように感じます。

描いていると考えが発展して、制作するものの輪郭が次第にはっきりしてくるそうで、「実際の制作に入る前に、作業手順や使う色などを明確に整理している」と話してくれました。

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    果物や野菜、貝のようにも見えるガラスのパーツ。

制作現場で生まれる、エネルギーに満ちた造形。

Yuriさんは武蔵野美術大学を経て富山ガラス造形研究所を卒業後、作家として独立。制作場所として『富山ガラス工房』を利用し始めました。富山ガラス造形研究所に隣接した場所にあって、「設備を借りて制作できるので、初期投資の心配をせずに済み、シームレスに作家活動に移行できた」とのこと。

富山で暮らす多くのガラス作家がこの工房を利用しているので、精神的に孤独になりがちな作家同士がコミュニケーションをとることができ、Yuriさんも「場に助けられている」と言います。

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    この日は、友人のガラス作家にアシスタントを頼んで制作。

Yuriさんの作品の多くは、宙吹きという技法で成形されるもの。ストロー状の長い金属の竿の先にガラスを巻きつけ、空中で息を吹き込むとガラスが内側から押し広げられます。

近くで作業を見ていると、金属の竿を通して吹き込まれた息が、ガラスに吹き込まれた命のように見え、誕生の瞬間に立ち会っているような尊い気持ちが湧き上がってきました。

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    高温で溶けたガラスに、息を吹き込んで形をつくっていく。

「スケッチであらかじめ決めた形と予定調和を図るのではなく、制作の『現場感』を大切にしている」とYuriさん。ガラスが自然に辿り着こうとする、無理のない「嘘のない形」を表現したいと語ります。

少し前までは、花入れや器などの日用品を多くつくっていましたが、今はオブジェが中心。オブジェに軸を移したことで、用途と造形を両立させる必要がなくなりました。その結果、造形の自由度が高まり、色やパーツも増えたといいます。それとともに作品から漂う多幸感が強まっているように感じられました。

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    形成中にガラスが硬くなってくると、炉で温めて再びガラスを柔らかくする。

この日は40〜50分ほどで、一つの作品が形になりました。炉の中で溶けていたときのようなガラスの柔らかさを留めたのびやかな作品は、ガラスの元気なエネルギーを制御し尽くすことなく、流動性も重力も偶然性も受け止めています。そして、素材とのコミュニケーションや信頼が、ガラスの中に溶け込んでいました。

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    ベンチでの作業が終わったら、作品を金属の棒から切り離してゆっくりと冷ます。

現代ガラスの世界で、独自の立ち位置を築く。

実はYuriさんが大学入学当初に目指していたのはテキスタイルデザイナーでした。ガラスを選んだのは、透明さに強く惹かれ、光によって造形される不思議さを知ったから。自分でつくった作品でありながら、触れられるのは表面だけで、内側には直接触れることができない隔たりや距離感に素材の面白さを感じ、創造意欲を掻き立てられたそう。

ガラスの形を包み込みながら光が屈折し、内側からふわりと立ち上がる様子、重なった色がにじむ美しさ、触れられない部分に尊さを見いだし、創作の大切な要素にしています。

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    色の濃淡や重なり、独創的なフォルムなど、それぞれの作品にいくつもの見どころがある。

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    色の濃淡や重なり、独創的なフォルムなど、それぞれの作品にいくつもの見どころがある。

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    色の濃淡や重なり、独創的なフォルムなど、それぞれの作品にいくつもの見どころがある。

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    色の濃淡や重なり、独創的なフォルムなど、それぞれの作品にいくつもの見どころがある。

Yuriさんの作品は、これまでの生活工芸や抽象表現のどちらにも当てはまらない、既存の枠組みを揺さぶるような存在感を放ちます。そして今、この柔らかな表現が、現代ガラスの世界で独自の立ち位置を築きつつあります。

ご本人は「作品があまりに尖っていて、自分でも良いのか悪いのか分からなくなるときもある」と笑いますが、活動の場が広がっていくことで「認められている」という前向きな実感が生まれる側面も。

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アウトローなスタンスで意欲的に作品づくりに励むYuriさん。その一方で、ガラスの歴史や現代ガラス界における自分の立ち位置を相対化して客観的に見つめる冷静さやバランス感覚もあわせ持っています。

そして今後、ますますの活躍が期待されるYuriさんに朗報! 2026年4月、Yuriさんの作品がロサンゼルスのギャラリーで展示されることになりました。溶けたガラスのエネルギーが、今、海を越えようとしています。

Profile Yuri Iwamoto(ユリ イワモト)-1

Profile Yuri Iwamoto(ユリ イワモト)

1993年、埼玉県生まれ。武蔵野美術大学在学中にフィンランドのアアルト大学へ留学し、現在の作風の基盤を築く。2021年に富山ガラス造形研究所研究科卒業後、富山を拠点に制作活動を続けている。

credit text:高井友紀子 photo:京角真裕


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