星付きレストランが惚れる猟師、石黒木太郎さん。「最先端の田舎」が生み出すジビエ。-1
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星付きレストランが惚れる猟師、石黒木太郎さん。「最先端の田舎」が生み出すジビエ。

記事公開日:2026.03.19

富山市の中心部から車で約1時間の場所にある大長谷(おおながたに)は、白木峰や金剛堂山の登山口がある、岐阜県に隣接する中山間地。大長谷川に沿って南北約10kmに広がる地域に、およそ50人が暮らしています。

この地で猟師として生きる石黒木太郎さん。石黒さんが仕留めた熊や鹿、猪などのジビエは、フレンチや日本食といった星付きレストランの料理人たちから高い評価を受けています。

人気を集めている理由、そして石黒さんの狩猟への思いを知ろうと、大長谷を訪れました。

故郷の自然の中で、狩猟をしながら生きる。

大長谷は人口の半数以上を移住者が占めている地域で、石黒さんは「すべてが削ぎ落とされた、最先端の田舎」と表現します。過疎化が進んで地域の行事はほとんどなく、近所からの干渉やしがらみもありません。

石黒さんも移住者2世。両親が自然栽培の農業を始めるために大長谷に移り住み、子どものころは電気やガスのない自然と共にある暮らしの中で育ったといいます。北海道や富山市中心部に近いアパートに住んでいたこともありましたが、最終的に選んだのは、生まれ育った土地での生活。

「大長谷は趣味と仕事の境界がほとんどなく、生活の延長線上に楽しみも経済活動もある。自分が身を置くのは、中途半端な街中ではなく山奥の方が合っていると感じた」。こう話す石黒さんにとって、大長谷は自分らしく生きられる大切な居場所です。
 

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    冬になると深い雪に覆われる富山市大長谷。

狩猟免許を取得したのは23歳のとき。地元の先輩猟師から「お前も鉄砲をやらないか?」と声をかけてもらったのがきっかけです。

子どものころから、近所の猟師が仕留めてきたジビエを食べていた石黒さんにとって、猟師は身近な職業のひとつ。そして何より、大長谷で獲れる肉がとてもおいしいことを実体験から知っていました。

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    幼いころから、猟師が身近な存在だった石黒さん。家庭でジビエ料理を食べることもあったという。

「富山は海のイメージが強いけれど、『富む山』と書くだけあって山の魅力も大きい。食べ物も植物も動物も豊かで、いろんな場所を訪れたけれど、これほど素晴らしいものがたくさん揃っている場所はない。雪の多さや曇りがちでグレーの空も、たくさんの恵みをもたらしてくれる」と語ります。

暮らす上では、大変なことや地域の課題もたくさんあります。それでも石黒さんは「与えられた環境の中で、いかに楽しく過ごすかを大切にしたい。生き方の選択として狩猟を取り入れたことが、現在の経済活動にもつながった」と教えてくれました。

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    猟に出るときは、安全を確保するために目立つ色の服を着て、雪上をかんじきで歩く。

やがて先輩猟師に教わって、熊や鹿、猪などを獲るようになりました。ひとりで山に入ることもあれば、信頼できる仲間と数人で猟に出ることもあります。

ひとりで静かに獲物を狙う「忍び猟」、大勢で山を囲んで連携しながら仕留める「巻き狩り」、雪深い山で熊の巣穴を狙う「熊穴猟」など、猟法はさまざま。「熊穴猟は地域の猟師に伝えられている穴があり、だいたい一年おきに熊が入るので、タイミングを見計らって狙いに行く」と言います。

大長谷の狩猟には、長い時間をかけて受け継がれてきた知恵や技術が、今も息づいているのです。

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    獲物が走って逃げる方向を予測して撃つ判断力も必要。

自然の中で生きる動物と向き合う狩猟は、技術だけでなく、経験や勘、覚悟も必要です。

石黒さんの得意なライフル距離は300m。「視線の先に動いているものがあったらスコープをのぞき、獲物かどうか見極めて、確認できたら撃つ」と教えてくれました。

仕留めたらそこで終わりではなく、どこであろうと獲物を取りに行かなくてはなりません。スノーモービルに載せて持ち帰るのですが、載せられる場所までは自力で引っ張ってきます。

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    ライフルで1km先にいる獲物を狙うこともある。

品質を求めて、ジビエ処理加工施設を設立。

もともとは家族で食べるために始めた猟師でしたが、次第に「分けてほしい」と声がかかるようになりました。そこで石黒さんは、大長谷に加工場が必要だと考えるようになります。

2016年、自宅前にあった元郵便局の建物を譲り受け、自らの手で改修。野生鳥獣専門の処理加工施設『大長谷ハンターズジビエ』をつくりました。

仕留めた獲物は、鮮度や品質を保つためにできるだけ早く内臓を取り除く必要があり、猟をする大長谷に解体施設があることは、おいしいジビエを届けるうえで大きな強みになりました。設立当時、猟師自ら解体所を運営することは、全国的に見ても先進的な事例であり、地元のテレビや新聞でも大きく取り上げられました。

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    『大長谷ハンターズジビエ』は、農林水産省のガイドラインに沿って整備されている処理加工施設。

石黒さんの肉の評判はすぐに広がります。富山は料理人同士のつながりが強い土地。紹介が紹介を呼び、取り引きする料理店が次々と増えていきました。

「今はお金を出せば何でも手に入る時代。その中で、物語のある食材や本当に品質がよいものを料理人たちは求めている。自然な流れで、そこにつながることができた」と話します

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    左から熊、鹿、猪の肉。個体識別番号を書き入れ、いつどこで獲ったジビエか分かるようにしている。

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    左から熊、鹿、猪の肉。個体識別番号を書き入れ、いつどこで獲ったジビエか分かるようにしている。

取引先の料理人たちには、いつでも調達できる家畜肉とは違うことを伝え、できるだけ骨付きの状態で肉を買ってもらうように頼んでいます。料理人ごとに求める肉が違うので、雄雌、月齢などを見極めて、その肉を生かしてくれる人のもとへ届けます。

ただ売るのではなく、「誰が、どう使うのか?」ということまで提案できるのが、石黒さんの強みであり、支持される理由はそこにもあります。

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    世界中からグルマンが訪れる、南砺市利賀村のオーベルジュ『L'évo』も取引先のひとつ。『L'évo』では熟成させた熊肉を薪火で焼き、季節の野菜や花と盛り付けている。(『L'évo』提供)

「今まで食べたジビエの中で一番おいしい」と言われることが、石黒さんの喜びです。

より気軽にジビエを楽しんでもらうために、富山市の『メツゲライ・イケダ』と共同で、鹿と猪の腕やすね肉をブレンドしたソーセージも開発。大長谷にある『村上山荘』や『大長谷温泉』で販売しています。良質な肉を使ったソーセージは、臭みがなく、肉のパワフルな歯応えや深い旨みを感じられました。

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    『メツゲライ・イケダ』と共同開発したジビエソーセージ。『村上山荘』ではピザの具としても使われている。

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    『メツゲライ・イケダ』と共同開発したジビエソーセージ。『村上山荘』ではピザの具としても使われている。

売るのは肉だけではありません。動物の革も大切な資源。獲物の革を使い、友人が猪革の財布やキーケース、熊革の名刺入れを作ってくれました。石黒さんはそれらを愛用しています。

さらに富山の革作家からも声がかかり、地域のものづくりとのつながりも生まれました。

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    愛用している財布やキーケースを見せてくださった。

狩猟・解体・加工・販売を一貫して手がけているからこそ、獲物を余すことなく活用できます。それは単なる資源利用ではなく、恵みを無駄なく生かそうとする命への敬意でもあります。

大長谷には熊を獲ったら、膵臓を後ろを向いて山に返すという風習が今も残っており、山神への信仰に基づく習わしを、石黒さんは大切に守り続けてきました。自然の恵みをいただき、感謝とともに山へ還すという循環の中に、石黒さんの狩猟があります。

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大長谷で暮らし、楽しく生きることが、地域貢献になる。

「狩猟は、学校教育のように決まった答えのある世界ではありません。不確実な世界であり、たくさんの要因が重なって結果が出てくる」と語ります。狩猟ブームもあって猟友会に入る人も増えていますが、ほんの少しのことで、結果が大きく変わってくることを必ず伝えているそうです。

石黒さん自身、事業をさらに広げたい気持ちもありますが、拡大すれば狩猟肉の品質を保つのが難しい面もあり、現在の規模を大切にするつもりだと言います。

そんな中でも「狩猟文化を次世代につなげたい」という思いは消えません。狩猟は経済活動や趣味だけではなく、農作物をはじめとする地域の暮らしを守るための大切な営みだからです。

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    「狩猟文化を次世代へつなぐことは、地域の暮らしを守ことにつながる」と力説する。

石黒さんは大長谷で暮らし、生きることが地域への貢献であり発信であると考えています。

最初は「狩猟がしたい」「おいしい肉を食べたい」という純粋な気持ちでしたが、その思いが、今では多くの人を喜ばせるようになりました。

「過疎化が進んで人が少なくなった豪雪地帯でも、マネタイズできることを見つけて楽しそうに暮らすのが僕の一番やりたいこと。自分のために一生懸命していることが、結果として誰かのためになれば嬉しい」と言い、自ら生きる姿を通して、その思いを伝えています。そして今、大長谷の暮らしの中から生まれる新たな事業の可能性を探りはじめています。

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Profile 石黒木太郎(いしぐろもくたろう)

富山県富山市出身。2014年に狩猟免を取得。2016年にジビエ処理加工施設『大長谷ハンターズジビエ』を開設。平成30年度 農村振興局長賞(捕獲鳥獣利活用部門 個人)受賞。捕獲したジビエの処理・加工・販売をしている。

credit text:高井友紀子 photo:京角真裕


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