旬の食を求めて ぐるりとめぐる富山湾の旅<冬編>-1

旬の食を求めて ぐるりとめぐる富山湾の旅<冬編>

約500種もの魚がすむ富山湾では春夏秋冬、いつ訪れても新鮮な魚介が食べられます。中でも冬は特別な季節。ブリ、紅ズワイガニ、ゲンゲなどが最高潮を迎えます。全国的にも富山県の魚介はおいしさで知られていますが、なぜ美味しいのか……。その理由と、富山県の代表的な冬の魚介の魅力についてお伝えします。

とやまの魚介が美味な理由:その1 -3層構造で広がる海と栄養豊富な川-

富山湾は日本有数の深い湾のひとつ。水深1200mに達する冷たい「日本海固有水(海洋深層水)」の上に、水温が約10~30度で季節的に変動する、温かい「対馬暖流水」が重なり、さらに海面付近には「沿岸表層水」と呼ばれる淡水と海水の混じり合った、汽水性の海が広がります。この特徴的な海水温の違いは、暖水性や冷水性の魚介類の生息場となり、そのまま魚種の豊富さにつながります。
いっぽう地上では、標高3000m級の立山連峰から栄養豊富な河川水や湧水が海に流れ込み、小魚のエサとなるプランクトンを育むことで、小魚は中型・大型の魚の良質な餌に。このように性質の異なる3層構造の海と豊かな山の水が、富山湾の多様で美味しい魚を生み出している理由です。

とやまの魚介が美味な理由:その2 -巨大な天然の「生けす」-

能登半島の付け根にある富山湾は、西側に広がる大きな半島によって形作られる半閉鎖海域。このため、沿岸まで深い海底谷が続く富山湾は、天然の「生けす」となって、ブリに代表される回遊魚を湾の奥まで誘い込みます。さらに、回遊する魚群を待ち受けているのは、富山湾沿岸の約80張にもなる仕掛け「越中式定置網」。この「二重の生けす」によって、日帰り操業の漁師が毎日新鮮な魚を、水揚げすることができるのです。
魚介の質では、新鮮さに勝るものはありません。獲る場所と市場までの移動時間が短い、目の前に広がる広大な「生けす」も、富山県の魚介の美味しさを生み出しているのです。

【とやまのブリ】雷鳴とともに、富山湾にやってくる、鮮度抜群、たっぷりと脂がのった最高級魚

毎年、荒れ狂う冬の日本海に「ブリ起こし」と呼ばれる雷鳴が轟くと、北陸のブリのシーズンがやってきます。ブリは温かい九州西部の海で生まれ、春から夏に対馬海流に乗り日本海を北上、北海道周辺の豊富なエサを食べながら夏から秋を過ごします。
そして、海水温度が低くなる晩秋から冬にかけて、再び南下。この旅の途中、「天然の生けす」である富山湾に入り込んだブリたちは、長旅によって身が引き締まり、さらに富山湾の良質な小魚をエサにし、脂がたっぷりとのっています。これが最高級の富山のブリとして水揚げされるのです。

ブリは富山の食文化が詰まった魚。新鮮だから、丸ごと1本食べきれます

富山のブリの美味しさの秘密は、沿岸から定置網までの距離が近いこと。そのため朝に水揚げされたブリをその日のうちに食べられます。鮮度抜群のブリは、刺身、ブリしゃぶ、焼き物、ブリ大根、アラ炊き、酒盗……と余すことなく料理されます。

  • 刺身

    刺身

    長い海の旅の途中でエサを体に蓄え、たっぷりと脂がのったブリの刺身。引き締まった厚みのある身は弾力のある歯ごたえで、脂と旨味のハーモニーが口いっぱいに広がります

  • ブリしゃぶ

    ブリしゃぶ

    腹と背の脂ののった切り身を湯にさっとくぐらせ、半生の美味しさを味わうブリのしゃぶしゃぶ。薄切りだからこそ、鮮度の良さと脂の旨味がしっかりと感じられる一品です

  • ブリ大根

    ブリ大根

    ブリの頭とアラを薄塩で締めた後に、湯通しして生臭みをとり、大根と炊き合わせたブリ大根は、ブリ料理の定番。富山の天然ブリは新鮮で臭みがないので味噌味もおすすめです

Column

この人に聞きました-1

水口秀治さん

この人に聞きました

「割烹 秀月」代表取締役の水口秀治さんは、県内の料理店で修業した後、生まれ故郷の氷見市で開業。40年以上にわたって、ブリをはじめ富山の魚介と向き合い続けています。
「富山の食文化を守りたい」との想いから、認定「とやま 食の匠」講師や富山県料理研究会の常務理事も担当

【とやまの紅ズワイガニ】漁場が近いからおいしい紅ズワイガニ。富山のトップブランド「高志の紅ガニ」

紅ズワイガニは、水深800m以下の深海に住むカニ。海底にエサを入れたかごを沈める富山発祥の「かにかご漁法」で捕獲し、漁期はズワイガニよりもひと足早い9月1日から始まります。茹でる前から甲羅と足が赤く、富山県では県産の紅ズワイガニのうち、重さや甲羅の大きさなどが一定の規格を満たしたものを「高志(こし)の紅(あか)ガニ」と呼び、タグをつけてブランド化。
富山湾は漁港から漁場が近いために鮮度がよく、肉厚な身の甘さと甲羅の中にあるミソの濃厚さで、ズワイガニにひけをとらない、富山ならではの美味しいカニとして人気を集めています。

食べたらわかる!「浜前」のおいしさ。鮮度のよい活カニは、シンプルに料理

富山の紅ズワイガニは比較的安価で、旬の時期には茹でたカニがスーパーに並ぶほどポピュラーな食材。茶碗蒸しやカニグラタンも美味ないっぽう、新鮮で質の良いものが手に入ったら、あまり手をかけずにシンプルな料理で味わいたいものです。

  • 茹で紅ズワイガニ

    茹で紅ズワイガニ

    富山の紅ズワイガニは比較的安価で、旬の時期には茹でたカニがスーパーに並ぶほどポピュラーな食材。茶碗蒸しやカニグラタンも美味ないっぽう、新鮮で質の良いものが手に入ったら、あまり手をかけずにシンプルな料理で味わいたいものです

  • 焼き紅ズワイガニ

    焼き紅ズワイガニ

    香ばしい香りと、ほっこりとした甘みが味わえる焼き紅ズワイガニ。生やボイルとはひと味違う、凝縮されたカニの旨味や、ほくほくした食感も焼き料理ならではの魅力です

  • 刺身の紅ズワイガニ

    刺身の紅ズワイガニ

    カニ本来の味を存分に楽しむことができる紅ズワイガニの刺身は、冬に富山を訪問したら必ず食べておきたい品。鮮度が高いからこそできる刺身で、カニ本来の甘みと旨味を心ゆくまで堪能できます

Column

この人に聞きました-1

川口香さん

この人に聞きました

「割烹 かわぐち」は、富山湾の漁港の中でも「浜前漁港」と呼ばれるほど漁場が近い、射水市の新湊漁港そばに店を構えています。「鮮度のよいものを食べてほしい」と話す川口香(かわぐち・かおる)さん。
たしかな目利きでセリ落とした活カニを店内の大きな水槽に入れ、新鮮な状態で提供しています。

【とやまの ゲンゲ】嫌われものから一転、幻の魚になったゲンゲ ゼラチン質でふわふわジューシーな揚げ物に

水深200~300m以下の冷たい海にすむ「ゲンゲ」は、深海魚らしい顔つきが災いし、甘エビなどを獲る底引き網に引っかかってしまう「下の下」として、かつては漁師たちから嫌われていたという魚種。非常に多くの水分を含み劣化が早いため、漁村の家庭料理でしか食されていませんでしたが、流通改革とともに、全身を覆うゼラチン質に含まれる豊富なコラーゲンに注目が集まり、滅多に口にできない「幻魚(ゲンゲ)」として人気が高まっています。
漁獲後すぐに冷水に入れて保存するなど、おいしい状態を保つ工夫も凝らされ、現在ではさまざまな料理で楽しむことができるのです。

魚津の食の伝統と魅力を堪能。富山ならではの食材、ゲンゲを体験

かつて漁村の家庭料理では、ぬるぬるとしたゼラチン質をいかした味噌汁や吸物ダネにしていたとのこと。現在は、水分を上手に閉じ込め、油で揚げるとふわっとした食感になるため、唐揚げや竜田揚げ、天ぷらなどが人気の調理法として知られています。

  • 竜田揚げ

    竜田揚げ

    ゲンゲの竜田揚げは、有名なグルメ漫画で紹介されたのをきっかけに人気に火が付き、富山県魚津市を代表する名物料理に。唐揚げも地元の多くの料理店で提供されています

  • ゲンゲの天ぷら

    ゲンゲの天ぷら

    ゲンゲの天ぷらのとろけるおいしさは、鮮度と調理の手際が重要。生きている状態で頭を落として皮をむき、衣で水分やゼラチン質を閉じ込め、高温の油でさっと揚げています

  • ゲンゲの干物

    ゲンゲの干物

    ゲンゲの干物は、地元でしか食べられない「幻魚」をお土産にできるとして重宝されている品。軽くあぶって食べれば格好の酒肴に。ぜひ、富山の日本酒とともに楽しみたいものです

Column

この人に聞きました-1

美浪呂哉さん

この人に聞きました

1908年創業の料理旅館を前身とした「日本料理 海風亭」の料理長・美浪呂哉(みなみ・ともや)さんは、1984年生まれの5代目。金沢都ホテルの和食店での修業後に実家に戻り、料理と経営で手腕を発揮するほか「新川食文化研鑽会」を立ち上げ、地元魚津の食文化の向上や発信にも努めています

ほかの季節も旬が愉しめます 四季のとやま魚介カレンダー

海と町の距離が近く、定置網漁業が主流の富山では、早朝に水揚げされた新鮮な魚が、夕方には「朝獲れ」のシールを付けられてスーパーに並びます。1年中どのシーズンに来ても、おいしさ自慢の富山の魚を食べることができます。

Column

「富山湾の宝石」は、なぜ一年を通じて愉しめるのでしょうか-1

いつでも美味しいシロエビ

「富山湾の宝石」は、なぜ一年を通じて愉しめるのでしょうか

水晶のように透き通った姿が「富山湾の宝石」と称されるシロエビ。深海の底の谷に住み、これほどの量が獲れるのは世界中で富山湾だけといいいます。鮮度落ちが早いため、かつては生食できるのは旬の時期のみでしたが、高い鮮度を保つ最新の冷凍技術が開発されたことにより、いつでも最高の状態でシロエビを口に運べるようになっています。

この記事を見た人はこんな記事を見ています