富山の地酒がおいしい理由を探りに、蔵元を訪ねる-1

富山の地酒がおいしい理由を探りに、蔵元を訪ねる

富山には19ヵ所の造り酒屋があり、それぞれに魅力あふれる特徴的な日本酒を醸しています。蔵ごとの味の違いは、地域の食との関連が深く、どの蔵も地元の人が好む味を目指してきました。杜氏たちは新たな酒造りに挑戦しながら、次代に地酒文化を継ぐことを一生懸命に考えています。4つの蔵元を訪ね、お話を聞きました。

【玉旭酒造】風の盆の町で、地元の酒米を使った酒造り

「玉旭酒造」は、おわら風の盆で知られる富山市八尾町にあります。八尾町には50〜60年ほど前まで7つの造り酒屋がありましたが、今は2ヵ所だけになってしまいました。

酒造りの中心を担うのは、蔵元杜氏の玉生貴嗣さん。蔵は貴嗣さんが子どものころは女人禁制だったそうですが、今は奥様も酒造りの戦力です。緑色をした大きなホウロウ樽には約4,800ℓのお酒が入るそうで、11〜2月に仕込んだ日本酒が冷んやりとした場所で静かに熟成していました。熟成期間を極端に短くするなどセオリーから解き放たれた仕込みをしたり、甘くてフルーティーな日本酒やリキュールを増やしたりと、近年の「玉旭酒造」は挑戦的な酒造りをしています。

さらに貴嗣さんは、富山の酒米を使った醸造にこだわっています。8年前からは八尾町の桐谷地区で県の酒米「雄山錦」も育て始めました。高齢化や担い手不足によって耕作が放棄される田んぼを守る役目も果たしています。「田植えや稲刈りにはお酒の販売店さんや中学生なども手伝いに訪れ、人口が40人くらいしかいない集落が大賑わいする」と言って、少人数の蔵のフットワークの軽さや面白さを紹介します。

【玉旭酒造】文化や風習、現在の町の姿とともに、酒の魅力を発信

「おわら娘」という日本酒をお土産に選ぶ観光客が多いそうで「この名前は、大切に育てた娘を嫁に出したいけれど、離れるのが寂しいという親心を、酒にも重ねているんだ。どうか大切に飲んでくださいという気持ちを込めている」と話します。ラベルにはおわらの歌詞の一節「酔えばおのずと踊りの手振り、酒よ八尾のオワラ玉旭」も書かれており、「玉旭酒造」にとって特別なお酒であることが伝わってきます。土地の風習や文化、現在の町の姿とともに、お酒の魅力が発信されています。

【皇国晴酒造】湧水を生かし、地元の食に合う酒を造る

「皇国晴酒造」は湧水群が有名な黒部市生地にあり、江戸末期(文政元年)の古地図には酒蔵の名が記されています。長年にわたり、さっぱりとして軽快な味の日本酒を醸してきました。敷地には日本の名水百選に選出されている湧水の水源が3つもあり、仕込み水にはすべて地下50mから湧く名水が使われています。蔵元の岩瀬新吾さんは「うちの酒は、白身の魚に合うように考えている。この地域の醤油が甘いのも、白身の魚に合うことを考えてそうなっているんだよ」と、地域の食との味との関連性を語ります。代表銘柄「幻の瀧」は、黒部川の最深部にある姿を見せず音だけが聞こえる滝から、その名が付きました。

【皇国晴酒造】宮大工が造った、木組み板張りの仕込み蔵

仕込み蔵は80年ほど前に宮大工によって建てられた強固な造りで、酒のタンクに釘が落ちてはいけないからと柱や梁は木組みになっています。現在は安全の為補強されています。床が板張りなので蔵人が安全に作業でき、仕込みのない時期には柿渋を塗り重ね、高品質な酒造りの場を保っているそう。仕込み期間中は室内を7度から8度に保たれており、蔵を訪れた3月下旬にはすでに冷房が入っていました。

専務の由香里さんと一緒にホウロウ製のタンクを覗くと、酒造りの進み具合がよく見えます。「このタンクはバナナに似た香りがしますし、こっちはリンゴっぽいですかね」と由香里さんに案内されながら、いろんなタンクの中を覗かせてもらい、興味津々で仕込みたての香りを嗅ぎ分けました。香りは酵母の影響が強いそうです。近年は純米スパークリングや果汁を加えたものなど、お酒のラインナップが増え続けています。少量しか醸造しない流通量のわずかなお酒もあるので、ぜひ蔵元を訪れて選んでみてくださいね。

【三笑楽酒造】世界遺産・五箇山で、ふくよかな食中酒を醸す

世界遺産の五箇山にある「三笑楽酒造」を訪れると、酒造りをする蔵が急峻な山坂にへばりつくようにして建っています。蔵元杜氏の山崎英博さんが「ここは市町村合併以前は『平村』という名だったんだけれど、平らな場所なんてひとつもなくて。各集落にブナ林があるんだけど、蔵の裏もそうなっているんだよ」と教えてくれました。天然のダムとも呼ばれるブナ林は、村の水源となり、春は雪崩から地域を守る役割を果たしています。

「蔵の湿度の高さを守り、麹を乾きにくくし、味わい深い日本酒になるのもこの場所に蔵があるから」と英博さん。25歳の若さで杜氏になり、山で獲れるクマやイノシシ、山菜で作った保存食に合うふくよかな食中酒を醸し続けてきました。「五箇山の人がケの日に飲んでくれないと成り立たない。地元の人を裏切らない酒を造り、次代につなげるのが自分の役目だと考えている」と言います。 

【三笑楽酒造】スパイス料理やショートケーキとも相性がいい

酒造りをするのは11〜3月にかけて。昨シーズンからは昔ながらの小型の麹蓋を使った麹造りも始め、大吟醸や純米吟醸の仕込みに使うようになりました。箱麹法で出来上がる麹に比べると「香りや手に触れた感触が違って、麹の力の違いも感じられる」と話します。
 

また蔵の環境から生まれる菌や酵母の繊細な魅力を伝えようと、「三笑楽」では山廃仕込みの日本酒のラインナップも増加中。この日、蔵に置かれた大きなタンクから1週間ほど前に仕込んだ山廃が、プクプクと発酵泡を浮かび上がらせていました。「舐めてみていいよ」と言ってもらい口に運ぶと、お酒とバナナが混ざったような不思議な味と香りがします。どんなお酒に仕上がるのかと考えていたら「燗酒にして平盃で飲むと、スパイス料理やショートケーキとも相性がいいからやってみて」と英博さん。空想ばかりが膨らんでいきます。 

【髙澤酒造場】昔ながらの「槽搾り」で、口当たりのやさしい日本酒を搾る

明治初期に創業した「髙澤酒造場」は、現在7代目の髙澤龍一さんが、蔵元杜氏を務めています。大学を卒業して県外で働いていましたが、この地で酒造りをする重要性や氷見のよさを改めて感じ、蔵を継ぐことを決意しました。時代の流れによって日本酒の好みも変わってきていますが、初代から酒造りの根幹は変わりません。

「地の食文化に合うもの、氷見の魚に合うお酒を目指している」と言い、キレのいい日本酒は刺身や煮魚などさまざまな魚料理を一層おいしくしてくれます。酒造りの特徴は、富山で唯一すべての酒を「槽搾り(ふなしぼり)」という方法で搾っていること。蔵の中にある「佐瀬式」と書かれた水圧機を使い、醪(もろみ)の重さで、時間をかけて日本酒が搾られます。これによって「口当たりが柔らかくて、やさしいお酒になる」と龍一さんは話します。

【髙澤酒造場】氷見の風土に根ざし、新しい酒造りも果敢にチャレンジ

先祖がここから見る富山湾の日の出の美しさに感動し、末代まで醸し続ける酒の名を「有磯 曙」に決めたと伝えられています。仕込み水は井戸水を一部に用い、蒸した酒米を冷ますときには富山湾から吹き込む寒風「あえの風」を利用するなど、風土が酒の味につながっている要素もふんだんにありそう。

 

龍一さんがUターンしてから、富山産の酒米で醸す「初嵐」シリーズや、日本酒を飲み慣れない人にも味わってもらえるように香りのよさを意識して仕上げた「AKEBONO」シリーズを造るなど、新たなチャレンジを続けています。港町•氷見で醸造された日本酒を、ぜひ味わってください。 

富山の蔵元紹介はいかがでしたか。ひとくちに地酒といっても、土地の食文化や風土、杜氏の考えによって、富山でもいろんな日本酒が造られています。飲み比べを楽しみながら、旅の思い出を語り合い、お気に入りの味を見つけてください。

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