昆布の採れない富山県と昆布の深いカンケイ【後編】-1

昆布の採れない富山県と昆布の深いカンケイ【後編】

富山県の北西部に位置する高岡市。高岡市伏木港も北前船の寄港地のひとつで、例にもれず昆布文化がもたらされた歴史がある。その中で生まれた郷土料理、昆布締めは魚を保存するために考案された調理法で、昆布の旨味成分により魚がよりおいしくなると、各家庭に広まっていった。そうした背景を反映してか、ここ高岡市には昆布締めの“専門店”があるという。

地元に根付いた食文化に光を当てる

「昆布締めは子どもの頃から食卓によく出てきた料理です。一般的には白身魚を使うのですが、我が家ではアオリイカでつくることもありました。ねっとりとした甘味が出て、大好きでしたね。あと、山菜を昆布締めにすることもありました」

こう教えてくれたのは、「クラフタン」のオーナー・竹中志光さん。本業は建築業だが、縁あって昆布締め専門店を営むことになった。畑違いの職業から飲食店を開業することになったのは、「高岡の町をもっと盛り上げたい、観光客の方にもっと高岡の魅力を知ってもらいたい」という思いから。

「地元に根付いているものに光を当てたらどうかと、昆布締め専門店を考えました。そんな時、山町筋の旧文具店の建物を取り壊すという話が出て……。魅力のある建物を保存したいと地元有志で集まり、ショップとして活用することになったのです」

昆布締めのポテンシャルを広めるべく開業

「昆布締めにはポテンシャルがあると信じていて、PRしたかったのです」

県民のソウルフードともいえる昆布締めのポテンシャルを広く届けるためにも、昆布締め専門店をオープン。昆布締めの新たな一面を追求し、肉や野菜を使った新メニューも考案した。

開業は2017年。1年目は周知に苦労したうえ、その年の冬は10年に一度といわれる大雪に見舞われ、結果に結びつかず……。しかし春には町歩き番組で某落語家の目にとまり、全国ネットのテレビ番組に店が紹介された。次第に店の存在が県内外に広まっていき、最近は、県外客にも、そして地元客にも通ってもらえる店に成長している。

旬魚、肉、野菜も昆布締めに

昆布締めには、道南地方で養殖されている一年物の昆布締め専用昆布が使いやすいといわれ、「クラフタン」もこれで食材をはさんでいる。食材は富山湾で水揚げされた旬魚をはじめ、肉、季節の野菜、豆腐、コンニャクなど。食材を締める期間を問うと、

「地元では、半日程度締める浅漬けが好きな人もいれば、3~4日ガッツリと寝かせるのが好きな人もいます。それぞれ好みによるのですが、うちの店では半日から一晩程度、食材の特徴に合わせて時間を調整しています」と竹中さん。
 

ほどよく水分が抜け、昆布の旨味をまとった食材は香りがよく、上品な甘味が感じられる。竹中さんいわく、魚と肉に含まれるイノシン酸と昆布のグルタミン酸が合わさることで、旨味は7倍に。驚きの数字だが、妙に納得してしまうおいしさだ。イモ、レンコン、カボチャといった根菜類もとても甘い。風味がよいので、なにもつけずとも美味しく食べられるが、「煎り酒(※)」もよく合う。

※煎り酒(いりざけ):梅干し、酒、かつお節、昆布などを調合して煮詰めたもので、醤油が使われる以前の時代に活躍した調味料

せいろで温めて食す、
新感覚昆布締め

「我ながら大発明だと思っているのが、昆布締めのせいろ蒸しです。昆布締めは常温で食べることが多く、それでも十分おいしいのですが、温めたらどうなるんだろうと。試しに蒸してみたところ、昆布の旨味や香りを引き立たせ、昆布締めの新しい一面を知ることができました」

せいろの蓋をあけると、湯気とともにふわりと昆布と食材の香りが立ち、鼻腔をくすぐる。口に運ぶと、通常の昆布締めとはまた異なる旨味が感じられるようだ。

昆布締めを富山のお酒とペアリング

「クラフタン」で提供している日本酒はもちろん富山の地酒。ウイスキーや焼酎なども富山県で製造されているものや、富山県とゆかりの深い銘柄を揃えている。竹中さんの好みで置いているクラフトビールは日により異なるが、取材時は東岩瀬「KOBO Brewery」のビールが3種類ラインアップ。

深い味わいの昆布締めと富山の多様なお酒類とのペアリング、ぜひ楽しんでほしい。

昆布締め料理専門店 クラフタン
住所|富山県高岡市小馬出町6 山町ヴァレー 弐の蔵
Tel|0766-75-9013
営業時間| 11:00~14:00、18:00~22:00 ※月曜~水曜はランチのみ
定休日|無休


text:Hiroko Yokozawa photo:Hideyuki Hayashi

本記事はDiscover Japan WEBより引用掲載しております。
 

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