新シェフ・増山明弘氏による「Healthian-wood The Table」(立山町)のフレンチ薬膳フルコースを実食!
2020年に立山町にオープンした「Healthian-wood(ヘルジアンウッド)」。美と健康をテーマに、レストラン、ハーブガーデン、アロマ工房、サウナ、古民家を改装した宿泊施設等が集まる複合施設として、常に進化し続けています。2025年5月には、そのヘルジアンウッドのメインダイニングである「The Table」に新シェフ・増山明弘氏が就任。シェフ渾身の五感を刺激する「フレンチ薬膳」フルコースのディナーをペアリング付きで実食してきました!
ヘルジアンウッドのレストラン新シェフ就任の“吉報”が届いたのが、2025年3月。2024年11月から無期限の休業を宣言し、新たなシェフ探しの旅に出たヘルジアンウッド代表の前田大介さんが「運命の出会い」をしたのがシンガポールの地。増山明弘シェフは前田さんの考える「世界一美しい村を作る」というヘルジアンウッドの理念に共感し、シンガポールから富山の地に移住を決めたのだそう。ランチは先行して5月からスタートしていたのですが、メインダイニングである「The Table」は6月12日から。完全おまかせで9品の「フレンチ薬膳」フルコースを、さっそくいただいてまいりましょう!
※ランチメニューは、ふぉとやまライター曽我さんがレポ―トしていますので、以下のリンクをご覧ください
「旅するように、季節を食す。五感をほどくフレンチ薬膳」がスタート
私が来店したのは、7月下旬。OMAKASEコース「五感の庭」は、「ハーブ」「薬膳」「スパイス」のエッセンスを最大限に活かしたメニューとなっており、季節ごとに変化するとのこと。吞兵衛の私は、まずはペアリングのスパークリングワインで乾杯。ほどなく、最初の1品が到着しました。
目の前に現れたのは「The 24 STOCK/二十四節気/エミュー」と名付けられたスープ。二十四節気とは、古代中国で生まれた暦の単位で、太陽の黄道上の位置に基づいて1年を24等分したもの。薬膳料理はその節気に合わせて最適な食事を提供することが基本のようです。そしてエミューって、あの背の高い鳥のことですよね?私、食べたことがありません。
増山シェフからは「このスープのコンセプトは、“回復・再生”です。野菜の皮や端材をベジタブルストックとして活用する精進出汁をベースに、二十四節気に合わせてセレクトしたハーブやスパイス・薬膳素材を使用した、秘伝の薬膳スープとなっています」とのご説明。
さっそく蓋をあけてみると、ふわーっと柔らかくも優しい薬膳スープの香りが漂います。一口スープをスプーンで啜ると、なんとも滋味深い感覚が舌に広がります。さらに中には、私の大好きな雲吞が!
「佐賀県基山町”きやまファーム‘’のエミューの挽肉を詰めた雲吞です。エミューは、鉄分が豊富で、高たんぱく低カロリーの栄養価高い食材なんです」
雲吞も臭みが全くなく、エミューと表記がなければ、鳥であることも気づかなかったと思います。このスープひとつをとってみても、このコースにかける増山シェフの想いが伝わってきます。
前菜には、牡丹エビや水蛸など、富山湾の海の幸がふんだんに
スープで胃腸が温かさに包まれたところで、お次は前菜へ。まずは、牡丹エビと茄子がコンソメのジュレでとじられた一品。ペアリングの富山県氷見市のワイナリー「SAYS FARM」の2022年ロゼワインを合わせると、お口の中で素晴らしいマリアージュが!
さらに水蛸と胡瓜と雲丹を、ババロアとゼリーと泡ソースで和えた、爽やかなフレンチな一皿が到着。暑さを忘れさせてくれます。さすが27 歳で渡仏し、ブルゴーニュやシャンパーニュなどフランス各地で研鑽積んだ、増山シェフの技術が光っています。
コース中盤は、春巻き?焼き魚?これまでの料理の概念を覆すようなメニューが登場
スープや前菜の段階で、かなり口福感に包まれた状態に。まだ3品しか出てないとは信じられない。
ここからコース中盤に入ってくるのですが、届いた一皿を見ると、これは「春巻き」ですか??
中に包まれているのは、なんとフォアグラ!
スイートコーンのソースにたっぷりつけて食べると、中華なのか、フレンチなのか、はたまた和食なのか。これまで私が経験したことのない感触がお口の中に広がっていきます。うん、美味しい!
次は神経締めされた焼き魚と自然薯をあわせた一皿が。
メニュー名にある「虎さん」とは、魚津市の定置網漁師で神経締め師でもある、浜多虎志さんのこと。
神経締めは、魚の死後硬直を遅くし旨味成分の元を極力減らさずに鮮度を保つことができる技術ですが、「虎さん」は血抜も施すことで、魚の美味しさをグレードアップされる名人だそうです。
生産者さんへのリスペクトを欠かさない増山シェフが、いかに真剣に富山湾の魚と向き合っているかがわかる逸品でした。
あれ、いつの間にかペアリングが日本酒に変わっている!
いよいよメインの肉料理、そして締めの「ウコン麺」に到達!
いよいよメインの肉料理が登場。ここまで1時間ほど経過したでしょうか。18時にスタートしたときには、まだ高かった太陽も富山湾に沈もうとしています。ヘルジアンウッドの素晴らしいところの一つに、この立地があります。富山平野の扇状地の広がりを感じ、天候の良い日は富山湾まで見晴らすことができる唯一無二の立地。特にディナーであれば、私のように黄昏時の景色の変化を愉しむこともできます。本当に美しい。
メインの肉料理は、富山市呉羽地区にある池多ファームの池多牛。池多ファームの牛は、100%自家農場で生産収穫した牧草と県内産コシヒカリの稲わらなどの飼料作物で育てられており、循環型の酪農を実践されています。
ハーブカツは丁寧な調理でしつこくなく、池多牛の美味しさを最大限まで引き出されていました。
そして締めの麺は、ウコンを練り込んだ長崎の素麺を、富山市にある土遊野(どゆうの)の鶏出汁でいただきます。希望すれば追いトリフュもOK!
土遊野も池多ファームと同様に、循環型農業に取組んでおり、人にも環境にもやさしい作物を育てています。
一口啜れば、胃腸だけでなく心も癒されていくようです。
デザートは2種類。最後まで考え抜かれた「フレンチ薬膳」のフィナーレ
自らを”恋するシェフ”と称する増山シェフ。コースのフィナーレを飾るデザートにこそ、その神髄があるのかもしれません。
まずは西瓜のデザート。ハーブであるエルダーフラワーのジュレでいただきます。エルダーフラワーは、イギリスでは「庶民の薬箱」と呼ばれるそうで解熱効果や利尿作用、美肌効果があるとか。
そして最後は赤パプリカのアイスとセロリのグラニテ。まったりとした口あたりのアイスと、シャリシャリとしたシャーベット、2つの異なる食感が楽しめました。
最後の最後まで、非常に考え抜かれた「フレンチ薬膳」。ヘルジアンウッドのホームページにも「まるで短い旅を終えたような充足感に包まれます」とのコピーがありますが、まさにその通り!
これまで歴代のヘルジアンウッド「The Table」のシェフの方々も素晴らしい腕前でしたが、増山シェフはこれまでのご経歴も踏まえ、稀有な審美眼(審食眼?)の持ち主。今後さらに、富山・立山との関係を深めていく中で、「フレンチ薬膳」の内容も進化していくこととなるでしょう。
一度経験すると、季節ごとに何度も通いたくなる。富山県内の人はもちろん、県外・海外の方にも体験していただきたい、素晴らしいコース料理でした!