修験の道を辿る立山信仰の世界-1

修験の道を辿る立山信仰の世界

今は富山駅からも約2時間で立山周辺の大自然に触れ、気軽に天空の旅を楽しむことができます。その原点は立山信仰にあったといわれており、その昔、佐伯有頼により開山された立山は、平安時代、修験者が山林修行し、江戸時代には日本三霊山の一つとして全国から巡礼の旅が盛んに行われました。 今回は山中に広がるディープな立山信仰の世界を紹介します。

称名滝・伏拝

国内随一の落差350mを誇る名瀑。平安時代の「今昔物語集」では勝妙ノ滝(優れた滝)として人々に知られ、その滝壺には神仏を守護する大蛇が棲むと言われていました。伏拝とは、一説では、源頼朝の挙兵を促した真言僧の文覚(もんがく)上人が滝壺で修行を行ったところ、流れ落ちる滝の音が「南無阿弥陀仏」と念仏を唱える声(称名)に聞こえたことから、自らも念仏を唱えて伏して滝を拝んだ場所を「伏拝(ふしおがみ)」と名付けたと伝えられています。今は「滝見台」と呼ばれるスポットで、立山黒部アルペンルートを走る高原バスから雄大で荘厳な称名滝を遥望することができます。

一ノ谷・獅子ヶ鼻

かつて「鎖禅定路(くさりぜんじょうみち)」と呼ばれた修験の道です。険しい鎖場が連続し、立山が信仰の山であった名残を色濃くとどめています。獅子ヶ鼻は30~40mの巨岩の絶壁で、あたかも獅子が深い谷を見下ろしているように見えます。一説では、弘法大師:空海がこの岩端に座して七日七夜に亘って調伏の護摩を焚き、修行者を困らせていたアキュラセツという魔物を退治したと伝えられています。2つの岩屋があり、東側には役行者、西側には弘法大師像・不動明王像が祀られています。
 

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上市黒川遺跡群

近年の発掘調査で平安時代末から鎌倉時代の寺院・墓地・経塚・行場などがまとまって発見され、この地がかつて剱岳を望む一大霊場として繁栄していたことが明らかとなりました。特に経塚や墓跡は、ともに規模が大きく、密教法具である独鈷杵(とっこしょ)や、仏事の際に鳴らす銅製の磬(けい)など、優れた遺物も数多く出土しています。当時の墓地の築造方法や埋納・埋葬状況などの具体的な様相を示すだけでなく、当時の宗教や信仰、葬送のあり方と地域社会の関係を示す北陸地方での代表的な事例として、2006年(平成18年)に国の史跡に指定されました。
※ 経塚 仏教の経典を弥勒菩薩(みろくぼさつ)が出現する未来の世に伝えるために埋納した盛り土

剱岳

「岩と雪の殿堂」と呼ばれ、登山者の誰もが一度は登ってみたいと憧れる、言わずと知れた日本の名峰。古くから山そのものが不動明王として崇拝されていました。江戸時代の立山曼荼羅では、地獄の針の山として描かれ、弘法大師:空海が草鞋(わらじ)千足(三千足とも)を費やしても登頂できなかったと伝えられています。明治40年、陸軍の陸地測量部:柴崎芳太郎(しばざき・よしたろう)が率いる測量隊が、明確な記録に残る初登頂を果たし、その際に山頂で平安時代の錫杖頭と鉄剣が発見されました。遥か昔、すでに修験者により登頂されていたことが明らかとなりました。
 

大日岳・七福園

七福園は、中大日岳東側の尾根筋に位置するなだらかな平地です。白い花崗岩の巨岩が折り重なるように露出し、その間を埋めるようにハイマツやナナカマドが多数自生しています。背後には奥大日岳や剱岳、立山が借景として立ち並び、あたかも野趣豊かな日本庭園といった感じの場所です。巨岩で形成された岩窟からは、かつて修験者が使用したと思われる鐙(あぶみ)や刀子(とうす)などが発見されています。

玉殿窟(たまどののいわや)

室堂(むろどう)平(だいら)の西端、雄山を望む崖の中腹にある洞窟で、奥行きは約4mあります。立山開山の聖地と伝わり、その開山縁起によれば、国守の子であった佐伯有頼は白鷹と熊に導かれ、この岩屋の中で立山権現の化身である阿弥陀如来と不動明王から立山開山のお告げを受けました。その後、有頼は名を慈興と改め立山を開山したとされ、立山曼荼羅にはこの様子が描かれます。
この他、立山室堂(国重文:江戸時代の山小屋)が建設される前は、修験者の宿泊に使用されたとも伝わっています。

別山 

別山は立山信仰において重要な山の1つです。その頂きには帝釈天が住まうとされ、平安時代の仏教説話集『今昔物語集』には「帝釈岳」の名で紹介されています。その一方で、登ってはならない山とされた剱岳を遥拝する場所でもあり、立山曼荼羅には、その頂から剱岳を拝む行者の姿が描かれています。実際に山頂から望む剱岳は雄大で迫力があります。
標高2,880mの山頂はなだらかで、硯ヶ池(経ヶ池)と呼ばれる池があります。江戸時代、立山信仰の布教で頒布された経帷衣(きょうかたびら)や各種の護符を作る際には、この池の水で擦った墨汁を用いたと伝えられています。
 

立山の自然、信仰・文化が学べる施設「立山博物館」

立山の自然と人間のかかわりがテーマの博物館です。立山の自然、信仰・文化が学べる「展示館」、立山の自然や立山信仰の世界に関する映像を臨場感ある3面大型スクリーンでご覧いただける「遙望館」、立山曼荼羅の世界を五感で体感できる「まんだら遊苑」があります。敷地内には国の特別天然記念物ニホンカモシカを見学できる「かもしか園」などの施設もあります。博物館周辺に点在する遺構も含めて、立山を巡る人々の営みや歴史を体感してみてください。

【番外編】立山黒部アルペンルートで行こう!

富山県と長野県を結ぶ人気の山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」。総延長37.2km、最大高低差1,975m。ケーブルカーやトロリーバスなど環境や景観に配慮した6つの乗り物を乗り継ぎ、富山県側の「立山駅」と長野県側の「扇沢駅」の間を移動していきます。なかでも標高2,450mにある「室堂」はアルペンルートの名所!気軽な散策から本格的なトレッキングまで楽しめるのはもちろん、大自然を感じるスポットやグルメなど、魅力たっぷりの室堂をご案内しています。

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