魚津の玄関口で和食文化と魚津の魅力を発信する
「日本料理 海風亭」5代目 美浪 呂哉さん -1

魚津の玄関口で和食文化と魚津の魅力を発信する
「日本料理 海風亭」5代目 美浪 呂哉さん 

あいの風とやま鉄道魚津(うおづ)駅の目の前、そして、富山県の“三大飲み屋街”の一つに数えられる「柿の木割り(かきのきわり)」の入口にある『日本料理 海風亭(かいふうてい)』。

1908年に創業、116年もの歴史を持つこの店で腕を振るうのは、5代目の美浪呂哉(みなみ・ともや)さんです。 
金沢都(みやこ)ホテルの日本料理店での5年間の修業を経て、2009年に帰郷。

2015年に、父親の跡を継ぎました。
伝統を大切にしながら、新しい感性と情熱を持って店を盛り立てるとともに、魚津の食文化を発信するリーダーの1人として注目されています。そんな美浪さんに、食へのこだわりと、ふるさとへの思いを聞きました。

個々の利益追求だけでなく、まちの好循環を生む未来を


美浪呂哉さんは魚津に戻ると、料理の腕を磨くと同時に、2011年に富山大学と魚津市が共同で始めた、地域の将来を担う企業人やリーダーを育成する「魚津三太郎(うおづさんたろう)塾」に入塾しました。1期生として、今でいうSDGsのような、環境に対する国際的な流れや、地域資源の価値を理解し、社会貢献活動やネットワークの構築などについて学びました。

ここでの経験が、「食材や料理の魅力を伝える上で、思いを言語化するのに役立った」と話します。そして、自分の商売さえうまくいけばよい、という考えではなく、もっと多業種が協力してまちを盛り上げれば、やがて皆が潤う好循環が生まれるはずだと思うようになります。たまたま、同世代の若い料理人が相次いでUターンしたこともあり、同志が集って郷土食を研究し、レシピ開発などを行う「新川食文化研鑽会(にいかわしょくぶんかけんさんかい)」を結成。

その活動は、2020年の「富山県ふるさとづくり大賞」にも選ばれました。

 

「バイ飯」ブームがやってきた!


東京の六本木ヒルズで開催された「Fish-1(フィッシュワン)グランプリ」で、魚津漁業協同組合が出品した「バイ飯(めし)」が準グランプリを受賞したのは、2014年のことでした。当時、いわゆる漁師飯の「バイ飯」を提供する店はなかったのですが、これを機に、“魚津バイ飯”として売り出し、人を呼び込むのに一役買ったのが、「新川食文化研鑽会」でした。今ではブームが定着し、「バイ飯」は、店によって味を食べ比べできるまでになりました。

『海風亭』のバイ飯は、バイ貝らしい食感を残しながらも、程よいやわらかさで、バイ貝のうま味をしっかり吸った炊き込みご飯に、田舎みそとバイ貝の肝を和えた“肝みそ”を添えることで、味の変化も楽しめる逸品です。
また、美浪さんは、店でお客さんを待つだけでなく、地元の小学校でバイ飯の料理教室を開いたり、イベントで東京のシェフとコラボレートするなど、魚津市内外で魚津の食材の豊かさをアピールしていきます。

 

グルメ漫画が有名にした幻の魚“ゲンゲ”の竜田揚げ


ところで、それよりもっと前に『海風亭』を有名にしたのは、人気グルメ漫画「美味しんぼ」(著・雁屋哲、画・花咲アキラ)でした。究極のメニュー作りに挑む、新聞社の山岡士郎らが、富山県で海原雄山との対決を行うというストーリーの84巻に、4代目の美浪利通(としみち)さんと妻の加志子(かしこ)さんが登場しています。

そこで紹介されているのが、店の名物となっている「げんげ竜田揚げ」です。富山湾の水深200~600mにすむ深海魚のゲンゲは、漢字では“幻魚”と書き、足が早い(鮮度落ちが早い)ことから、“下の下(げのげ)”の魚がなまったとも言われています。ゼラチン質が多く、ヌルヌルして扱いにくいこの魚を、表面はパリッと、中はとろっとした食感に仕上げた竜田揚げは、ぜひ味わいたい一皿です。


 

深海の漁場に近いというアドバンテージ


立山連峰からそそぐ栄養満点の雪解け水、急激に深くなる地形、そして、深海1,000mに“藍瓶(あいがめ)”と呼ばれる海底谷が広がる富山湾は、魚たちの格好のすみかです。

暖かい対馬(つしま)海流と、冷たい深層水が2層になった海には、500種類以上の魚介が生息すると言われ、“天然の生け簀(す)”とも称されます。富山湾の深海にすむゲンゲやバイ貝を気軽に口にできるのは、そうした幸運な条件が重なっているためで、何日もかけて遠くまで船を出さなくても、深い海にすむ魚介をその日のうちに水揚げし、テーブルに並べることができるのです。

鮮度管理でも全国トップクラスと言われる魚津の市場には、冬は寒ブリや魚津寒ハギ如月王(きさらぎおう)、春はホタルイカにシロエビ、夏は岩ガキやノドグロ、秋はベニズワイガニやフクラギなど、1年を通してさまざまな海の幸が並びます。そんな魚を、美浪さんは自ら目利きし、買い付け、丁寧に下処理し、調理することで、魚が持つ本来のおいしさを最大限に生かしているのです。

 

素材の良さに頼りきらない努力


素材へのこだわりは、魚介ばかりではありません。
ごはんは、自然農法で作った富山県産コシヒカリ。水は、そのままでもおいしい魚津の水に電気をあてて酸素量を増やした電気アルカリイオン水。下処理の段階から、だし汁、炊飯、調理と全ての工程にこの水を使っているそうです。油には、風味が良く、血中コレステロールを下げる働きのある米油を利用。化学調味料やうま味調味料は一切使わず、素材本来のうま味を引き出すことに注力しています。

そして見えてくるのは、素材の良さに頼りきらない美浪さんの努力です。狭い世界で満足しないよう、腕を競うコンテストには積極的に参加するという美浪さん。2017年に開かれた35歳以下の料理人が競う全国大会では銀賞を、2019年の日本料理コンペティションでは第3位になるなど、チャレンジ精神を絶やさず、自らを高めながら、日々料理に向き合っています。

 

大事にされている、と感じるおもてなし


美浪さんと一緒に店に立つのは、石川県から嫁いできた妻の佳奈さん。
人当たりが良く、気配り上手と評判の女将(おかみ)です。実は、お客さんが店員を呼びたい時、この店では呼び鈴を鳴らします。店じゅうに響くようなピンポン音ではなく、とてもささやかな音。それでも、スタッフがすぐに気づいて飛んできてくれることに、味の良さとはまた別の感動を覚えます。タッチパネルで注文する店も増える中、不思議と大事にされている感覚になるのです。

勉強熱心なのも夫との共通点。佳奈さんは、おもてなしを磨くため、時に若女将仲間と簡単な英会話や、マスク越しでのコミュニケーション術を学ぶなど自分磨きに励み、陰となり日向となり、料理長の夫を支えています。同ビルでホテルを営む4代目夫妻の協力も得ながら、家族で港町魚津の魅力を伝え続ける美浪さんです。

 

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