【うみとやま】風土と人の手が生み出す
「越中瀬戸焼」の魅力を知る-1

風土と人の手が生み出す
「越中瀬戸焼」の魅力を知る

北アルプスの裾野に広がる立山町は、目の前に標高3,000m級の山々が屏風のようにそびえる立山黒部アルペンルートの玄関口です。町の中心部から車で10分ほどの場所にある瀬戸地区では、430年以上前から焼きものづくりが行われてきました。富山県の伝統工芸品にも指定される越中瀬戸焼の魅力に迫ります。

430余年の歴史を持つ
富山を代表する焼きもの

越中瀬戸焼は、立山町の瀬戸地区で作陶される富山を代表する焼きものです。今から430年余り前に、尾張瀬戸(愛知県)から招かれた陶工が、この地に窯を築いて瀬戸焼を作ったことが始まりとされています。その後も加賀藩主•前田利長に招かれた2人の陶工が窯を開き、この地域で茶器から日常の器まで多彩な焼きものが作られるようになりました。

地元で採れた陶土を使い
作品づくりを続ける

 瀬戸の陶工がこの土地に窯を築いたのは、焼きものに適した良質な陶土が豊富に採れることに理由がありました。越中瀬戸焼の窯元のひとつ「越中瀬戸 千寿窯(せんじゅがま)」の吉野香岳さんは、二代前にあたる祖父が山から採ってきた土を使って作陶を続けています。「白っぽい土は茶道具、黄みがかった土は食器類、赤土は白化粧の器というように使い分けています」と話し、作品に合わせた土選びをしています。山から掘り出した土は、木の根っこやクズなどがまざった状態なので、土から不純物を一つひとつ取り除き、精製して粘土にするそうです。越中瀬戸焼の作家は、このように地元で採掘した土を使って各々が制作に励んでいます。

昔ながらの制作方法と
土地の恵みを大切にする

 手をかける材料は土だけではありません。吉野さんは釉薬(ゆうやく・うわぐすり)も、近くの農家の稲藁を燃やした「藁灰(わらばい)」、窯を炊いた後に残る「土灰(どばい)」などに数種類の原料を調合して自然由来の素材で手作りしています。また電気やガスの窯だけでなく、昔ながらの登り窯や穴窯など伝統的な薪窯を使った焼成を続けているのも、越中瀬戸焼の特徴のひとつ。薪を燃やしながら時間をかけて窯の温度を上げて焼成した作品は、窯の中で降った灰がかかるなどし、豊かな景色が生まれます。このように越中瀬戸焼は、土地の恵みとの結びつきが強い焼きものなのです。

作家たちが自ら魅力を発信
越中瀬戸焼を未来へつなぐ

 2011年に越中瀬戸焼の作家で組織する「かなくれ会」が結成されました。現在は6人の作家が所属し、展示や催し、お茶会、陶芸教室などを通して、越中瀬戸焼や立山の魅力を伝える活動を行っています。「かなくれ」とは越中瀬戸で「陶片」を意味する言葉。一人ひとりの作り手が、自然や風土、時代、そして自分と向き合って新たな作品を生み出しながら、越中瀬戸焼を未来へ継ごうとしています。

 

旅の思い出をいつまでも
とっておきの陶芸体験

越中瀬戸焼の作家が制作拠点にしている窯元の近くに、越中瀬戸の土を使って陶芸体験ができる「陶農館」があります。体験に使う陶土は、スタッフが採掘して精製したもの。棒を使って延ばしたり指で折り曲げたりしながら、思い思いの姿に仕上げることができます。また釉薬は10種類から選ぶことができ、越中瀬戸の土ならではの穏やかな色合いに心が癒されるはず。仕上がりは1ヵ月後以降なので、手元に届いたときに楽しかった旅の思い出がよみがえってきそうですね。

展示作品を見ながら
作り手ごとの魅力に触れる

 エントランスには、越中瀬戸焼の作家の作品が展示してあり、作家ごとの個性や作風を知るきっかけになります。茶道具から日常の器まで幅広く並べられていて、湯呑みや銘々皿などをお土産にするのもおすすめです。「陶農館」のスタッフの山田智子さん(千葉県出身)は、ここで働きながら昨年から「かなくれ会」の一員となりました。越中瀬戸焼に新しい風を吹き込む作品をつくっています。

口当たりのよさを
地元のコーヒー店で実感

 富山地方鉄道の五百石駅から徒歩約5分の場所にある立山町まちなかファームに、越中瀬戸焼の作家のひとり釋永陽さんの器でコーヒーやカフェラテを提供する「FLAT COFFEE」があります。4年前のオープン時から陽さんのカップを使い続けているそうで、焙煎士の平釜真吾さんは「初めて使った時に口当たりが柔らかくコーヒーがマイルドに感じました。店を持つ前から、いずれはカップの制作をお願いしたいと思っていました」と話します。カップの形はストレート、底に丸みのあるもの、くびれたものの3タイプがあり、常連さんからは「好きな形のカップに入れて欲しい」とリクエストされることもあるそうです。

ものづくりの姿に惚れたシェフが
抹茶碗に白ごはんを盛る

 南砺市利賀村は手付かずの自然が残る富山の秘境。フレンチのシェフ谷口英司さんはこの地に魅せられ、2020年にオーベルジュを開きました。ランチやディナーでは地元の素材に伝統食のエッセンスを加えながら、自らの解釈のもとフランス料理に仕立てています。ただ朝食だけは郷土料理が主役となり、近くに住むおばあちゃんに教えてもらった山里の味を中心に、この地の営みを映したような料理が並びます。
 ご飯を盛った器は越中瀬戸焼『庄楽窯(しょうらくかま)』の釋永由紀夫さんの作品。「ご本人から、地元の土を精製して作品にしておられると聞き感銘を受けました」と谷口さん。実は抹茶碗として作られたものですが、手にしたときに心が動いたことを理由に選んだそうです。面取りで立山連峰の山並みが表現されています。


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