深海の「宝石」シロエビが教えてくれる、
富山の魚介が美味しい理由
約500種もの魚介類が水揚げされる富山湾。中でも、とろりとした食感と凝縮された旨味が人気のシロエビは、4月から漁期が始まる春の風物詩だ。そんなシロエビをはじめとした富山湾の魚介の美味さの秘密を追って富山を訪ねた。
富山の魚介が美味しい理由は、
地形と高低差にあり!
富山の魚介がおいしい理由の一つは、富山湾を形づくる地形にある。上のイラストのように、能登半島の付け根にある富山湾は、西側を半島にふさがれた「半閉鎖海域」だ。これによりブリに代表される回遊魚は、泳ぎながら富山湾の奥まで誘いこまれて、いわば湾全体が天然の「生けす」状態となる。さらに、富山湾沿岸には「越中式定置網」が数多く仕掛けられている。このため、富山の漁師は毎日のように新鮮な魚介を市場に届けることができるのだ。
富山の魚介が美味しいもう一つの理由は、海と山の高低差だ。富山湾は水深1200mと日本有数の深さを持ち、水深によって温度が3層に分かれている。冷たい「日本海固有水(海洋深層水)」の上に、水温が約10〜30℃と変動する温かい「対馬暖流水」、さらに海面付近には汽水性の海が広がる。さらに、富山湾のすぐ近くには標高3000m級の立山連峰がそびえ、栄養豊富な河川水や湧水が海に流れ込む。この4000mを超える水の循環が多種多様な美味しい魚介類を育んでいる。
世界中でここだけ!
資源保護に配慮したシロエビ漁を体験
富山湾の地形は浅いところが少なく、岸部から急に深くなっているのが大きな特徴だ。海底には「海底谷(かいていこく)」という深い谷が刻まれ、複雑な地形をつくっている。海底谷は海の青さが一段と濃く、深い藍色をしていることから「藍瓶(あいがめ)」と呼ばれ、ここにシロエビが潜んでいる。「水深150~300mを上下するシロエビの群れをめがけて投網し、ゆっくりと曳網してから網上げする『かけまわし』という漁法で水揚げします」と教えてくれたのは、射水市新湊の漁船「松宝丸」船主の松本隆司さん。
松本さんは2020年4月に、野口和宏さんら漁業者仲間と共に「富山湾しろえび倶楽部」を発足した。世界中で富山湾でしか見られないシロエビ漁を、観光船に乗って体験するツアーを主催している。松本さんは「新湊のシロエビ漁船は8隻あるのですが、2斑に分かれて1日交代で出漁したり、漁船同士が協力して全漁獲をプールし均等に配分したりと、限られた資源を守る漁を行っています。この取り組みを体験ツアーによって多くに人に知ってほしいです」と笑顔を見せる。
シロエビ尽くしの御膳で、
富山湾の魅力を堪能
シロエビは、地元で刺し身や天ぷら、から揚げ、煮物や素麺の出汁など、さまざまな料理で食べられてきた。なかでも6~7cmの小さな身体の殻をむいて、むき身にする刺し身は贅沢な一品。女性たちによる昔ながらの手仕事で、1人前に約30分はかかると言われる。また、かつては、鮮度落ちが早く、流通しにくいこともあって生のシロエビが県外に出回ることは少なかった。近年、冷凍・冷蔵技術や輸送手段の発達によって、今では1年中食べられるようになったのは嬉しいことだ。
新湊漁港からほど近い「新湊きっときと市場」の海鮮レストラン「きっときと亭」では、「白えびづくし御膳」を提供。刺し身はトロリとした食感で甘味が口いっぱいに広がり、から揚げは小さくてもエビだ!と思われてくれる存在感たっぷりの旨味。ゴロっと丸ごとシロエビが入ったコロッケまで、シロエビの美味しさを余すことなく堪能できる。
漁やセリを観て、食べて、資源を守ることを学ぶ。それが富山の魚介の楽しみ方なのだ。
きっときと亭
住所|富山県射水市海王町1 新湊きっときと市場
Tel|0766-84-1233
営業時間|11:00〜16:00
定休日|不定休
text:Tomoko Honma photo:Yuri Yamasaki Illustration:Romi Watanabe
本記事はDiscover Japan WEBより引用掲載しております。