【ひととやまvol.5】地酒と湧き出る名水のおいしい関係-1

富山の「人」「つながり」にフォーカスし、そのバックストーリーを通じて富山ならではの魅力をお届けする「Hitotoyama」(ひととやま)。“とやまの人の、好きなとやま” を探す、新たな観光のカタチを提案します。

旅の音:いまが飲み頃の地酒と湧き出る名水のおいしい関係

名水の里として知られる富山県黒部市で140年以上にわたって酒造りを続ける「皇国晴(みくにはれ)酒造」。すいすいと体に染み入るそのおいしさの秘密は、敷地内に湧き出る名水にありました。
 

「晴れ晴れとした日本」をイメージして

ブリやカニなど海の幸が旬を迎える冬こそ、富山の真骨頂。その海の幸をいっそうおいしくするのが、なんといっても当地で醸された日本酒です。「幻の瀧」「豪華生一本」などの名酒で知られる「皇国晴酒造」は、富山県の北東部にある海沿いの町、黒部市生地(いくじ)地区で140年以上にわたり酒造りを続けています。
「皇国晴」とは「晴れ晴れとした日本」を表した造語。飲めばまさに晴れやかな気分になるような味わいが親しまれています。

敷地内に湧く名水で仕込む
 

北アルプスの山々に端を発する清流は黒部川に流れ込み、地下水となって生地地区のあちこちに湧き出ており、清水(しょうず)として人々の生活を支えてきました。同地区を含めた黒部川扇状地の湧水群は全国名水百選にも選ばれています。
興味深いのは、この地区に存在する20箇所の湧水スポットのうちの一つが、「皇国晴酒造」の約1500平米もの敷地内にあること。もちろん、酒造りに存分に活かされています。そのままでももちろんおいしいですが、米と麹が合わさり、とっておきの日本酒が生まれるのです。
 

県内初の女性杜氏が活躍
 

「皇国晴酒造」では、県内で初めての女性杜氏となった岩瀬由香里さんが活躍しています。「学生時代からおいしいお酒を造ってみたいと思っていました」と由香里さん。地元・和歌山の蔵でも酒造りを学び、結婚を機に生地にやってきました。
当初は瓶詰めや事務処理など酒造りの周辺業務を手伝っていましたが、前任の杜氏の引退をきっかけに自らが杜氏になることを決心。「社長からやってみたらと背中を押されました。当初は経験がないからと尻込みしていましたが、誰かがやらないといけない状況になったので……思い切りました」


 

鮮やかな連携プレーがおいしさへの第一歩
 

日本酒の仕込みが最盛期を迎える冬の蔵には、熱気と緊張感がみなぎっています。酒造りのスタートは、蒸し上げる米を洗い、水に浸す(浸漬)作業から。洗米には、もちろん敷地内の湧き水をたっぷりと使います。水につけておく時間は、米の品種や精米具合によって異なり、秒単位で調整しています。洗米、浸漬、蒸米機に投入という一連の作業を、蔵人と見事な連携で1秒の遅れもなく進める様子は圧巻の一言。「杜氏一人ではお酒はできません。日本酒はチームで作るもの。杜氏はあくまでオーケストラの指揮者のような存在」と由香里さんは語ります。
 

酒の神様が宿る蔵で“お米様”とともに
 

浸漬した米は蒸します。その量は、麹にする分ともろみ作りに使う分とで約900kg。蔵の中では専用の機械が稼働し、蔵人が忙しなく行き来しているものの、床には米粒一つ落ちていません。社長の岩瀬新吾さんがこまめに掃きとっているのです。「こぼれたお米を踏むようなことがあってはなりません。僕たちにとっては『お米様』ですから」。
また、衛生管理を徹底しているのは、酒をあらゆる汚染から守るためだけでなく、「蔵に宿るお酒の神様に失礼のないように」との思いもあるそう。一瞬の隙は酒の仕上がりも左右します。

子を慈しむように麹を育てる
 

蒸した米の約20%の量に麹菌をつけて繁殖させます。厳重に温度と湿度が管理された製麹室(せいぎくしつ)に引き込んだ米に、麹をふりかけたら、米の温度が均一になるように由香里さんと新吾さんで丁寧に米をほぐしていきます。「『いい麹になってね、おいしくなってね』と念じて作業します」と由香里さん。二晩寝かして米麹を作る間も麹の状態をこまめに記録します。「おいしいお酒ができた時、どういう状態で麹ができたのかをたどるためです。麹は生き物なので変化が見えるのは楽しいですよ」
 

100年以上の歴史ある蔵で進む発酵
 

蒸し米、麹米、水、酒母をタンクに入れ、3段階に分けて量を変えて仕込んでいきます(三段仕込み)。最後に仕込んでから約1カ月かけてアルコール発酵を進めます。タンク内の膜の状態はお酒の健康状態を表しており、こまめに確認します。「同じ米と酵母、麹を使っていても、ちょっとのことで味が変わるのが日本酒の難しいところ」と新吾さん。熟成したもろみをしぼると新酒ができます。
 

富山の情景を思い浮かべながら
 

「皇国晴酒造」ではコロナ禍以降、見学の受け入れを限定していますが、運が良ければ杜氏をはじめ、蔵人のみなさんの酒造りの情熱を間近に感じることができるかもしれません。
蔵にはショップも併設されており、「皇国晴酒造」の全商品をほぼ網羅しています。蔵を代表する酒といえば「幻の瀧」。純米吟醸は「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」で3年連続金賞を受賞したことも話題となりました。
また、生地地区には水揚げされたばかりの鮮魚や一夜干しを購入できたり(とれたて館)、定食などで楽しめたり(できたて館)と、魚尽くしの富山旅を満喫できる「魚の駅 生地」もあります。富山湾の魚介との相性の良さは現地で味わってこそ。富山の情景とともに心に刻まれることでしょう。

 

 

皇国晴酒造
富山県黒部市生地296
0765-56-8028

魚の駅 生地
富山県黒部市生地中区265
とれたて館 0765-57-0192
できたて館 0765-57-3567

 

わたしのとっておき|堀田 恵理さん

小さいころからの思い出がいっぱい。
「帰ってきたな」と感じさせてくれる特別な場所。

 


銅版画作家としての独立を機に故郷へ

中学の美術の授業で出会った版画制作に夢中になり、服づくりなど他の創作も好きでしたが、どの道でも大切なデッサンの面白さに惹かれ、美大に進学しました。東京で11年間暮らした後、大きなプレス機を置ける工房を構えるために地元の富山に戻ると決めたとき「刺激が足りないかも」と少し心配していたんですが、実際に暮らしてみるといまやSNSでどこでもつながれる時代ですし、全然そんなことは感じなくて。上市町は、生まれ育った私にとって思い出深いところ。特に小さいころから通った上市駅は「帰ってきたな」と感じさせてくれる特別な場所です。
今は様変わりしちゃったけど、ここに来ると当時のにぎわいを思い出してワクワクするんです。



上市には県民の“ふるさとの味”を支えるあのメーカーも

駅構内の上市町観光協会などで買える「上市でしょうが!」というシロップは、お湯で割って飲むと体が芯から温まり、お土産にも最適な一品です。お気に入りの食べ物も上市ならではのものが多いです。駅近くにある日本海味噌醤油は、富山県民なら誰もが知る「日本海みそ」を長年作り続けて“ふるさとの味”を支えています。
他には、駅からバスで行ける大岩山日石寺のそばにある「金龍」のにゅうめんも、冬の楽しみのひとつ。夏のそうめんが有名だけど、冬に食べるにゅうめんの温かさは格別ですね。



サイクリングで楽しむ温泉巡り

歩きやバスでも観光を楽しめますが、上市駅構内の観光協会では本格的なマウンテンバイクも借りることができるんです。町には天然温泉を楽しめる施設が4つあるので、サイクリングで巡るのも楽しいですよ。ラーメン、うどん、そば、定食など、おいしい老舗も揃っているので、きっと満足度の高い町巡りを楽しめるはず!

上市町観光協会
富山県中新川郡上市町若杉3-3上市駅構内



 

わたしのとっておき|清田 真吾さん

越中瀬戸焼と美しい自然、おいしいものが
ぎゅっと集まっている立山町が好き。

 


越中瀬戸焼とコーヒー

2014年に立山町に自家焙煎のコーヒーショップを開店してから、この町には面白い人やスポットがたくさんあると気付きました。一見すると田んぼが広がる平凡な景色に見えるかもしれませんが、実際には県外やお隣の石川県などから刺激を求めてここを訪れる人も多いです。立山を訪れる多くの方々が僕のお店にも立ち寄ってくださります。

立山町は「越中瀬戸焼の里」として430年以上の歴史を持つ場所。夫婦カップをいただいたことをきっかけに、陶芸家・釋永陽(しゃくなが よう)さんの作風に魅了され、お店のカップをすべてお願いしました。コーヒーの口当たりをまろやかに感じさせ、持ち手が手にしっくりとなじむ釋永さんのカップは、僕が焙煎したコーヒーにもぴったりだと感じています。

釋永さんをはじめ、多くの越中瀬戸焼の作家の作品が展示販売されている「越中陶の里 陶農館」は、当地の文化を伝える施設です。立山町の土を使った陶芸体験ではカップやお皿を作ることができ、1時間程度で楽しめる絵付け体験も人気だそう。地元の素材で器を作るという立山町ならではの体験をぜひ多くの人に楽しんでほしいですね。

 



立山町の食文化とお気に入り

「ささら屋 立山本店内 おこめぢゃや」では、同店の団子やお煎餅に合う軽めのブレンドコーヒーを提供しています。ここでは買い物だけでなく、工場見学やお煎餅の手焼き体験、2階からの立山の絶景も楽しめるんです。富山土産の定番「しろえび紀行」や、お店で食べる「おやつだんご」もおすすめです。




立山町にはおいしいものもたくさんあります。五百石(ごひゃっこく)の商店街にある「北海屋菓子舗」の素朴なシュークリームが大好き。同店の草餅も人気です。立山町民のソウルフード「大三元」の昔ながらのラーメンやかまぼこ入りチャーハンも愛すべきメニュー。越中瀬戸焼や自然、地元の魅力的な食文化がぎゅっと詰まっている立山町。僕も日々新しい発見をしながら、コーヒーを通じて町の魅力を伝えていきたいと思っています。

北海屋菓子舗
富山県中新川郡立山町五百石71

大三元
富山県中新川郡立山町草野158

 

わたしのとっておき|西淵 吏英さん

サンドイッチを食べながらゆっくりと一息。
ゆったりと心地よい朝を過ごせる最高の場所です。

 


朝のひとときに訪れるサンドイッチ専門店

自分のお店を開ける前に、ふらっと立ち寄るのが市電通りにある「ROSETTA O MICHETTA(ロゼッタ オ ミケッタ)」です。ここは、イタリアンの人気店「CIBO」が手掛けるサンドイッチ専門店で、朝のコーヒーと軽食が私の心をリセットしてくれます。

6席だけのこぢんまりとした空間なのに、天井が高く、程よい開放感があってすごく落ち着くんです。音楽や内装にはオーナーのセンスが感じられて、友達と近況を話しながらゆっくり過ごすにも最高の場所。お気に入りのメニューは、軽めのジャムトーストや、しっかり食べたいときはローストポークのバインミー、スモークサーモン&クリームのベーグルなどさまざま。寒い季節には、体の芯から温まるお手製スープもよくオーダーします。

 

ROSETTA O MICHETTA(ロゼッタ オ ミケッタ)
富山県富山市上本町4−7

 



富山市の花屋さんでは、500円以上の花束を買うと市内の路面電車の無料乗車券がもらえる「とやま花Tram」というキャンペーンをやっています。お花を選んだ帰りに、電車で富山のまちを巡りながら「ROSETTA O MICHETTA」で一息、なんて楽しみ方もおすすめですよ。
 




老舗酒屋で見つける特別なお土産

県外の友人や生産者を訪れる際、手土産を買いに立ち寄るのが「石坂善商店」です。100年以上続く老舗の酒屋さんで、富山の19の酒蔵すべてのお酒が揃っているとか。ここに来れば、ほかではなかなか買えない希少価値の高い日本酒にも出合うことができます。公私ともども仲の良い、若女将の信代さんにアドバイスをもらっています。

最近では「満寿泉(ますいずみ)」の干支ボトルや「林」「立山」の梅酒など、味はもちろんパッケージも素敵な日本酒をセレクトすることも多いですね。ドイツにいる友人に会いに行った時に持って行ったら、すごく喜んでくれました。自分用にはクラフトビールやワインを買って帰ることも。県外からのお客さんも多く、並んでいるボトルを眺めているだけでワクワクする大好きなお店です。

とやま旬だより|宇奈月温泉雪上花火大会&雪のカーニバル

温泉街を彩る、光と雪の共演!

富山県黒部市にある宇奈月(うなづき)温泉の冬の名物、「雪上花火大会」が今年も開催! 1月11日(土)を皮切りに、1~3月の毎週土曜、20時30分から約10分間、花火が打ち上げられます。冬の澄んだ空に打ち上がる色とりどりの花火と迫力ある音が街を包み込む様子を、温泉街一帯から見ることができます。美肌の湯と名高い温泉で温まった後、美しい雪景色とともに幻想的な花火を楽しむ贅沢なひとときを味わえます。
さらに、期間中の2月1日(土)には、宇奈月温泉最大級のイベント「雪のカーニバル」も同時開催。79回目となる今回は、松明(たいまつ)を持って街を練り歩く「タイマツウォーク」や、音楽とともに花火が舞う「雪上音楽花火大会」など、雪と炎のドラマチックな演出が目白押し。家族や友人、大切な人と一緒に宇奈月温泉で特別な冬の夜を楽しんでみては?


※詳細や実施の可否は公式サイト「黒部めぐり」(https://www.kurobe-unazuki.jp/)、もしくは公式X(旧Twitter)で確認を。
 

この記事を見た人はこんな記事を見ています