GO FOR KOGEI 2025 開幕!富山・岩瀬から広がる「工芸的なるもの」
工芸を現代的に問い直すアートプロジェクト「GO FOR KOGEI 2025」。
9月13日(土)から10月19日(日)まで開催されています。
今年のテーマは、民藝運動の提唱者・柳宗悦(やなぎ むねよし)の言葉に由来する「工芸的なるもの」。素材や技術に向き合う姿勢だけでなく、社会への批評や人とのつながりまで含めた広い概念を提示しています。
18組のアーティストや工芸作家、職人が参加し、富山・岩瀬と金沢・東山を舞台に作品を展開。先日、富山・岩瀬会場に行ってきました!
岩瀬エリア(富山市) ― 北前船の港町が舞台に
富山駅から車で約15分の岩瀬は、江戸から明治にかけて北前船の寄港地として栄えた街。
廻船問屋や酒蔵が並ぶ町並みは今も当時の面影を残し、近年は「桝田酒造店」を中心にレストランやギャラリー、アトリエが集まる文化エリアとして注目を集めています。
歴史と現代が重なり合うこの場所が、今年の舞台のひとつです。
酒蔵に広がるアートの世界
岩瀬にある老舗酒蔵「桝⽥酒造店 満寿泉(ますいずみ)」は、今年の岩瀬インフォメーションセンターでもあり、チケット購入も可能です。
館内には、昨年に続き「ヒールレスシューズ」で知られる舘鼻則孝さんが登場。
1階では「舘鼻則孝×桝田酒造店 Masuizumi Bottle Art」が展示されています。
ショーケースには現代アートをまとった酒瓶が並び、実際に桝田酒造店の日本酒が詰められています。
どんな瞬間に開けるお酒なのか妄想が膨らみました!
富山県南西部の井波の職人が制作したコマに、富山の和紙工房・桂樹舎が型染めした和紙を貼った作品も展示されています。こちらのコマは手にすることもできます。
舘鼻則孝さんのアートがカラフルでまわる姿も美しく、楽しめました。
台座にはこちらの酒蔵で使われていた樽や釜が活用されています。
2階・酒造場の床には2024年に描かれた大作「ディセンディングペインティング "雲⿓図"」や「ヒールレスシューズ」などが展示され、酒蔵の空間を鮮やかに彩っていました。
2023年に制作された葉山有樹さんの「双龍」も必見。
⼆頭の⿓が酒蔵の⼤きな扉をダイナミックに飾り、街全体をキャンバスに変えています。
富山出身アーティスト・サエボーグに注目
今年5月まで営業していた「旧岩瀬銀行」の2階フロアでは、5組のアーティストの作品を展示。
中でも私が以前より注目していたのは富山出身のアーティスト・サエボーグさんです。
サエボーグさんはラテックス製のボディースーツで家畜や虫に扮し、国内外で高い評価を受けています。
今回のGO FOR KOGEI 2025では、「工芸的なるもの」というテーマのもとパフォーマンスではなく、吊るされた豚のオブジェ「サエポーク(吊り豚)」と牧歌的な風景を融合させたインスタレーションを展開。モニター映像「Slaughterhouse」では、人間と動物の関係、生と性、ケアや管理といった社会の仕組みに鋭い問いを投げかけます。
カラフルでポップな空間に惹き込まれる一方、「人間と生きものの関わり」をドキッとするほど鮮明に意識させられるのがサエボーグさんの魅力です。
同じく旧岩瀬銀⾏で展⽰している髙知⼦さんの「ミームプロジェクト」は令和6年能登半島地震の被災地域に住む子どもたちがトートバッグに描いた絵を、髙さんが刺繍にして贈り返すというプロジェクトです。
このプロジェクトのオマージュとして、展示会場内にて無地のトートバックに自分で絵を描いたり、刺繍を施したりすることができる体験コーナーを設けています。
※トートバックの数に限りがあるため、先着順。無料。
旧岩瀬銀行展示|サエボーグ、清水千秋、清⽔徳⼦+清⽔美帆+オィヴン・レンバーグ、髙 知子、吉積彩乃
106名の共同作品「スカイネッコ」「ムウ」
富山港展望台の横には松本勇馬さんの「スカイネッコ」、旧林医院前には「ムウ」が展示されています。
「ムウ」は、病院に行くときに子どもが駄々をこねる様子を、牛にたとえて表現した作品です。作品左上には童子が牛を引っ張っていてとっても可愛くてユーモラスでした。
この2作品は、地元の人々をはじめ総勢106名が協力して完成させたもの。夏の暑さを避け、早朝や夕暮れ後に作業を進めてようやく形になったそうです。
わらを素材とした作品は、屋外に置かれることで時の流れとともに少しずつ表情を変えていくのも魅力のひとつ。
松本さんは近年、動物をテーマに制作することが多く、とりわけ「わらで毛並みを表現する手法が自分に合っている」と話しておられました。
動物をテーマにした松本さんならではの温もりが宿り、時とともに表情を変えていくのも魅力です。
桝田酒造店からほど近い「セイマイジョ」ではインドネシアのアーティスト、アリ・バユアジさんによる新作「One Eyed Rangda」を展示。
バリと富山が響き合う異文化的インスタレーションです。アリさんは、バリ島に流れ着いたプラスチック製の漁網を回収し、ほどいて織り直すことで新しいテキスタイル作品を創出。
今回の展示では、コロナ禍のパンデミック期に活躍したバリ・ヒンドゥー教の神話に登場する魔女「ランダ」を題材とした作品を中心に紹介しています。
バリ・ヒンドゥー教に登場する魔女「ランダ」は、大きな目、鋭い牙、長い舌、長い髪を持つ姿で描かれ、人々に災いをもたらす魔術を操りますが、一度倒されても必ず再生し、善の守護者、バロンと永遠に戦い続けるとされています。
そのランダとバロンの終わりのない戦いは、バリ・ヒンドゥーの哲学である「ルアビナダ(二元性の原則)」を象徴しており、善と悪は排除されるべきものではなく、バランスを取りながら共存するべきものであることを示しています。
プラスチックは人類に恩恵をもたらす一方で、深刻な環境問題も引き起こしています。ランダの長い舌に取り付けられた鏡には観る人自身の姿が映り込み、「世の中で起きる悪しきことに、果たして自分は無関係だろうか」と問いかけます。
怖さと愛嬌が同居するその姿は、まるで生きているかのよう。環境や人間の在り方について静かに考えさせてくれる作品です。
土と食の新しいかたち
「New An 蔵」では陶芸を中心に活動を行う現代美術家・坂本森海さんによる能登の残土を用いた七輪「移動する土」を展示。
坂本森海さんはさまざまな土地で自ら粘土を採取し、自作の窯を用いて作品を制作しています。
今回の作品は2024年の土砂災害で家に流れ込んだ泥をかき出すボランティアとして珠洲市(すずし)に滞在、残土を使って七輪を作り、その過程をもとに映像作品を制作。
10月19日(日)には実際に制作した七輪を使って食べ物を焼いて食べるBBQ体験イベントも開催されます(先着順・無料)。
「酒蕎楽 くちいわ」では陶芸家・桑田卓郎さんのうつわを使った特別コースを提供。
桑田卓郎さんカラーとも言うべき、目にも鮮やかな器の数々。いつもの「酒蕎楽 くちいわ」とは雰囲気がガラリと変わっていました。
器と蕎麦と日本酒が一体となる特別な体験です(要予約)。
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Information
「GO FOR KOGEI 2025」は作品鑑賞だけでなく、街歩きや食体験を通して「日常に潜む工芸性」を再発見できるアートプロジェクト。
金沢・ひがし茶屋街周辺の「東⼭エリア」でも展示が行われ、工芸と街並みが響き合います。富山と金沢、ふたつの会場を巡る楽しみもおすすめです。
秋の北陸を訪れ、富山・岩瀬の街並みとともに、現代に生きる工芸の可能性を感じてみませんか。
◾️チケット情報
▲共通パスポート(全会場1回ずつ入場可/別日利用OK)
一般:2,500円、学生:2,000円、高校生以下:無料
▲エリア別1DAYチケット(当日のみ有効)
岩瀬:一般2,000円/学生1,500円
東山:一般1,000円/学生700円
購入は公式ウェブサイトまたは現地インフォメーションセンターで。
◾️アクセス(岩瀬エリア)
▲富山駅から路面電車(富山港線「岩瀬浜行」)で約20分、「東岩瀬駅」下車、徒歩約5分。Suicaなど全国の交通系ICカードも利用可能。
▲駐車場は「富山港展望台」(10台・無料)、「岩瀬カナル会館」(75台・無料)を利用可能。