三郎丸蒸留所|“煙”を愛する若き作り手が紡ぐ、富山発スモーキーウイスキー

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こんにちは!ふぉとやまライターの青木栄美子です。
普段、民宿の女将として地元の食に携わる中で、私自身がその味わいに魅了された「三郎丸ウイスキー」。焚き火のような香ばしい香りが、飲んだ後もふわりと鼻に残り、長い余韻となってリラックスした時間を演出してくれます。
今回は特別に工場の中に入らせていただき、代名詞である「スモーキー」へのこだわりや、高岡銅器の技術を用いた蒸留器など、現場での真摯な仕事の様子と作り手の想いに触れてきました。富山の伝統と革新が詰まったその現場をレポートします。

本場スコットランドの味を追う、徹底したスモーキーさ

三郎丸が掲げる旗印は“スモーキー”。ウイスキーの本場、スコットランド産のピートモルト(煙の香りを付けた大麦麦芽)を仕入れ、2025年度の仕込みは週11仕込みのペースで原酒を生み出します。1トンのモルトから得られるのは200ℓサイズの樽わずか約3樽分。
「スモーキーなウイスキーしか造らないからこそ、どう個性を出すか毎日考えている」と製造主任の中尾 樹(なかお・いつき)さんは語ります。

戦後から続く挑戦の物語。

富山県砺波(となみ)市の田園地帯にある三郎丸蒸留所は、JR油田駅から徒歩30秒というまさに“日本一駅近”の蒸留所といえる立地にあります。戦後の米不足で酒造りが困難になった若鶴酒造が「米以外の原料で酒を」と始めたのがウイスキー造りでした。
1952年からウイスキー製造を開始しましたが翌年の火災により一部工場が消失、地域の支えもあり復興。その象徴が「サンシャインウイスキー」です。2015年にクラウドファンディングによる再整備が実現し、歴史的建屋を残しつつ最新設備を導入。新たなスタートを切りました。

高岡銅器から生まれた「ZEMON(ゼモン)」

2019年には世界初の鋳造製ポットスチル「ZEMON(ゼモン)」を導入しました。高岡銅器の技術を生かした厚みある鋳造構造で、耐久性と保温性に優れます。砂型に流し込む鋳造製法の為、銅の内面に凹凸が発生し銅に触れる時間を長くすることで不快な硫黄系の香りを取り除き、求める香味だけを残すのも特徴。銅は匂い取りの名人で、さらに銅錫合金のZEMONはその働きを最大化できるとのこと。

木桶発酵と乳酸菌の力

発酵槽には木桶を用い、プレス酵母を投入。さらに桶に棲みつく乳酸菌が二次発酵を促し、複雑なエステル香(華やかで奥深い香り)を引き出します。発酵は4日間かけて進みますが、管理の要は数値だけではありません。
「数値はあくまで目安。でも最後は現物を見る。発酵は繊細過ぎても大雑把すぎてもダメ。日々視野を広く観察することが大切」と中尾さん。経験と観察が品質を支えています。

熟成と樽のこだわり

主力のバーボン樽に加え、シェリー樽や国内ワイン樽、希少なミズナラにも挑戦しています。日本の高温多湿な気候では熟成が速いため、庫内に省エネに優れた井戸水を利用したクーラーを導入し、できる限りスコットランドに近い熟成環境を整備。さらに敷地内に樽工房を構え、樽の補修と加工を自前で行うなど、樽へのこだわりも徹底しています。
副産物の麦芽粕は家畜の飼料に、古い樽材は薪として活用。使い終えたボトルも粉砕して再資源化します。地元の鋳物や木工とも連携しながら、ウイスキー造りを通して「地域に拠って、世界に立つ」これが蒸留所の目指すところです。

若き主任・中尾 樹(なかお・いつき)さん

こうした現場を束ねるのが、氷見(ひみ)市出身の中尾 樹(なかお・いつき)さん(28)。2020年に三郎丸へ加わり、ボトリング部門を経て製造主任となりました。今期の仕込みは朝5時から夜まで二交代で現場を回し、原料調達から工程管理までを担います。「“うまい”だけで終わらず、飲む人に考えさせ、記憶に残るウイスキーを造りたい」。その言葉通り、彼の真剣な眼差しと日々の観察力が、一樽一樽の個性を形づくっています。
完成が見えるのは3年後。だからこそ今日の一手を誤らない。富山の水と風土を背負いながら、中尾さんは未来の一杯を仕込み続けています。

敷地内には、こだわりのレストランやショップも併設されており、蒸留所見学とあわせて楽しむことができます。 レストランで旬のお料理とウイスキーのペアリングを堪能したり、ショップでお気に入りの一本を選んだり。三郎丸蒸留所の奥深い世界観を、五感でゆっくりと満喫してみてはいかがでしょうか。

アクセス

  • 所在地:〒939-1308 富山県砺波市三郎丸208
  • 最寄り駅:JR城端線 油田駅 徒歩1分
  • :国道156号沿い、油田郵便局を過ぎて左折。敷地内駐車場あり。大型バスは要相談。

基本情報
  • 施設名:三郎丸蒸留所(若鶴酒造 内)
  • 営業時間:大正蔵ショップ 10:00〜16:30、見学受付最終 14:30
  • 定休日:毎週水曜・年末年始
  • ショップ:蒸留所限定ウイスキー、グラス、オリジナルグッズ

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