伝統工芸をエンタメに!庄川挽物木地師の新たな取り組み

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「庄川挽物木地(しょうがわひきものきじ)」は、磨きをかけた木の杢目(もくめ)が美しく、使い込むほどに味わいを増す伝統的工芸品で、高岡漆器や輪島塗といった漆器の材料にも使われている。挽物の技術と文化を後世に伝えるため、一風変わった視点や流行を取り入れて奮闘する若手木地師(きじし)の胸の内を探った。

「目指すのは伝統工芸ユーチューバー!」動画作成で仕事を紹介する渡辺さん

「目指すのは、伝統工芸ユーチューバですよ!」
伝統的工芸品の庄川挽物木地の職人、という肩書きとはかけ離れた突拍子もない話に、思わず目が点になった。南砺(なんと)市福光の「わたなべ木工芸」の木地師・渡辺博之さんは、伝統工芸のエンタメ化を唱え、現代の技術を駆使して工芸作業以外の活動にも取り組んでいる。そのうちの一つが、自社のユーチューブチャンネルの作成だ。動画では家族3人が出演して庄川挽物木地の技術や魅力を紹介、定期的に更新しており、チャンネル登録者は2350人を数える。
「伝統工芸の堅苦しいイメージを払拭したいんですよ。若い人に伝えていかないと、この業界は衰退していってしまう。楽しみながら取り組んでいます」
と笑みを見せながら話す。その凛としたまなざしには挽物木地の未来への想いがにじんでいた。

Column

庄川挽物木地とは-1

庄川挽物木地とは

庄川挽物木地とは、天然の木を使った工芸品で、杢目など木本来の表情が楽しめるのが特徴。1978年に国の伝統的工芸品に指定された。江戸末期に木材の集積地だった庄川に運ばれてきたケヤキなどの原木を利用して木地作りが始まったとされている。

ルーツを知りたかった 自分探しののち家業に

親の代からの挽物木地店で生まれ育った渡辺さん。さも小さいころから伝統工芸に触れる機会があり、それが職人を目指すきっかけになったのかを聞くと、
「いや、全く。ゆったりとした自分ペースの仕事がしたくて、子どもの時の夢は常連相手に髪を切る街の床屋さんでした。」
と話す。
高校卒業後に理容専門学校に進学したが、結局その道には進まず、約3年間をフリーターなどで過ごし、自分探しに明け暮れる。そのうちに家業の庄川挽物木地に興味を持ち始め、親に仕事を継ぐ旨を伝える。
「父親には猛反対されました。なぜなら、伝統工芸は売れないし、儲からない。さらに職人が高齢化して跡継ぎがいない暗い未来しかないから、でした」
と振り返る。
「でも、僕は挽物木地に育てられたから、自分を構成する要因が知りたかった。やってみてダメならその時に考えれば良い、と決意は変わりませんでした」
と顧みる。

家族3人4脚で催事を回り挽物を販売 一方で厳しい現実も 

家業に入ると、渡辺さんは漆塗りを担当した。父親は挽物作業、母親は経理と3人4脚の日々が始まる。皿や鏡餅用の台などの製品を作っては、全国の催事場を飛び回って販売する。店は常に誰かが出張しており、一家全員で顔を合わせるのも年に数日しかなかった。忙しい分、売上もあったが、移動費などの経費を差し引くと、利益は思うように上がらなかった。
「催事場で製品が一つも売れないのが一番ショックでした。宝石商など他の業者が一日で何百万円も売り上げているのに、自分のところはゼロ。本当にせつなかった」
とさみしげな表情で話す渡辺さん。渡辺さんいわく、挽物木地の皿が売れたのは戦時中までさかのぼるという。今はプラスティック製の皿にとって代わり、安価で丈夫な品が手に入る。挽物木地を選ぶだけの価値を見出さなければならない現実を突きつけられていた。そんな時に転機となったのが、コロナ禍だった。

コロナ禍の逆境がチャンスに 規格外の端材を使ったボールペンが大ヒット

2020年からのコロナ禍で県外への移動が難しくなり、催事も中止が相次いだ。あちこち行商に回る普段通りの生活ができなくなったある日、作業場を片付けていると、挽物に使用されない小さな木材が目に入った。サイズは規格外だが、細かい杢目や色は美しい。時に世間はSDGsといった持続可能な社会を目指す認識が広まり、その考えを取り入れた製品が付加価値を高めつつあった。渡辺さんは捨ててしまう端材を使ってボールペンを作ってみようと考え、試行錯誤の結果、「木地師が作るボールペン」として商品化した。
ボールペンが新聞などで取り上げられると、SDGsブームにも乗って大ヒットした。愛好家から「杢目がはっきりと表れていて、とても美しい」と高評価を受け、贈り物用に何度も購入するリピーターも掴んだ。
「庄川挽物木地の技術は使っていないので、キャッチコピーは『木地師が作るボールペン』です。伝統的工芸品とは異なりますが、既成概念にとらわれず、新しい視点で取り組みをして、挽物木地への認知と理解を少しでも増やしていきたい」と力を込める。

独自の視点と感性で庄川挽物木地を伝え、広める

現在は昔のような行商は数えるほどとなり、インターネットでの販売や、そこで得た人脈を元にオーダーメイド品の製作にも注力している。加えて、動画チャンネルの運営など、渡辺さん独特の感性と視点で庄川挽物木地を伝えていこうと熱を持って取り組む日々だ。
「庄川挽物木地が敷居の高い、とっつきにくいという印象を取り除くにはどうしたらいいのかをずっと考えています。伝統工芸をネットで検索するとネガティブな話しかない。それを楽しみながら変えていきたい。挽物は無心で作業し、動画撮影は頭を使うので、ちょうど良いバランスが取れていますよ。」
とはにかみながら話す。

庄川挽物木地の行く末を考え、新時代の手法を駆使して活躍する渡辺さん。エンターテイメント的な楽しさを忘れず、何事にも前向きに挑戦する若手木地師の姿に頼もしさを感じた。

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