2人の高岡漆器若手女性職人の想いに迫る!工芸文化を伝承し未来へ

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多様な加飾技法で作られる高岡漆器は、江戸時代に前田利長公が高岡城を築いたのと同じくして歴史が始まった。光沢のある滑らかで美しいデザインが特徴で、記念品や贈答品に喜ばれる工芸品である。400年以上に渡る高岡漆器の文化を伝承し、さらに発展させようと取り組む2人の若手女性職人の姿を追った。

【上原千紘さん】絵画で培った感性と技を作品に

「幅広い世代の目に留まるよう、自分の感性を生かした漆器を作っていきたいですね」。
こう話すのは、高岡市の柴田漆器店で働く上原千紘さん。兵庫県丹波市に生まれ、昔から絵を描くのが好きだった。学生時代は美術部に所属。芸術系大学の進学を機に富山県へ移り住み、そこでも絵画の勉強に励む日々を送る。卒業後、学生時代の学びを活かす仕事をしたいと柴田漆器店の門を叩き、漆器職人に従事するようになって6年を数える。
 

Column

高岡漆器とは-1

高岡漆器とは

江戸時代の初め、加賀藩の藩主前田利長が高岡市に高岡城を築いたとき、武具や膳などの日常品を作らせたのが始まりとされる。「彫刻塗(ちょうこくぬり)」や「青貝塗(あおがいぬり)」などと呼ばれる多様な装飾技術で作られる。高岡の祭で使われる御車山(みくるまやま)には高岡漆器の技が集められ、豪華絢爛(ごうかけんらん)な様子が観覧者を楽しませている。

絵画と高岡漆器。作品を制作するのは一緒だが、全く別のジャンルのように感じてしまう。どう学生時代に磨いた絵画の腕が活かされるのか尋ねると、
「漆器制作の際には図案を書きますが、その際に絵画の経験が役立っています」と上原さん。
アクリル画を専門的に学んだ経緯から、重ね塗りの技法を漆(うるし)塗りに反映させ、その技術に絵画で培った豊かな感性を加え、作品を生み出している。

「青貝塗(あおがいぬり)」と「彫刻塗(ちょうこくぬり)」の技術で制作

高岡漆器の技法の種類として、貝殻を薄く切って漆器や生地にはめこんで装飾する「青貝塗(あおがいぬり)」と、彫刻した木の上から朱色や黒色などの漆を塗り重ねて立体感とつやを出す「彫刻塗(ちょうこくぬり)」などがある。上原さんは主にこの2つの技で作品を制作している。
初めのころは、酒器や茶道具など曲面のある品の青貝塗に苦労した。薄さ0.1ミリほどの貝を一つ一つ貼り合わせるのは、想像しただけでも気が遠くなる繊細な作業だ。
「位置がずれるなど図案通り制作できず、貼っては剥がす、そんな毎日でした」。
淡々と振り返る上原さん。その表情からは、くじけずに労苦を糧にして技法を取得した充足感がうかがえた。

新しい作風で幅広い世代を惹き込む

上原さんの作品からは、現代的で洗練されたデザインのものが目立つ。作品の一つである酒器の銚子(ちょうし)には、市松模様、いわゆるチェック柄が青貝で装飾されており、チェッカーフラッグ柄好きな筆者も、その美しさに思わず目を奪われた。

そのほか、東京都内のものづくり企業とコラボしてポニーピン(髪飾り)を制作、彩り華やかな品に仕上がっており、敷居の高いイメージの伝統工芸品を身近なものとして受け入れられるよう試みている。
「高岡漆器職人が減少している今、従来のものに加えて新しい作風の品を生み出して魅力を伝え、歴史を受け継いでいきたいです」と上原さん。
 

2023年の「第53回高岡漆器展示会」では、彫刻塗の作品で最高賞の県知事賞を受賞。上原さんの創り出した作品から放たれる光沢は、高岡が誇る伝統工芸の未来の明るさを表しているかのようだった。

【芝さゆりさん】持続可能な高岡漆器を提唱

「SDGs」のキーワードに代表されるように、持続可能な社会の理念が広く認知されている現在、地球環境を考えた高岡漆器を提唱し、塗師として活動しているのが芝さゆりさんだ。
そのきっかけを「自分の子どもが生まれてから、子どもたちが安全に暮らせるよう、環境に対して関心を持つようになりました」と話す。

「自然に還(かえ)れるものづくり」を会社理念に

2021年に高岡漆器工房「うるしば」を創業した。「自然に還(かえ)れるものづくり」を会社理念とし、器やアクセサリーを販売している。漆は天然の素材。漆に混ぜる顔料も化学物質の入ったものではなく、土から採取するベンガラを利用する。
「一般的な顔料と比べて鮮やかな色は出にくいですが、自然のものなので色あせしにくく、耐久性もあります」と自信をみせる。

里山保護のために伐採した竹を使ったコップや、木材店で製材後に余った木を仕入れて作ったトレイなど、再利用を心掛けた製品制作にも取り組む。作品には、木地の木目が見えるよう、薄く塗る技法の「拭き漆(ふきうるし)」も取り入れている。
「全てを塗ると、何で出来ているのか分からなくなります。素材を見せる、素材を活かした品にこだわりたいですね」とほほ笑む。

漆器職人の家系から一旦はパティシエに

創業するまでに歩んできた人生模様はユニークだ。芝さんは祖父の代からの高岡漆器職人の家に生まれ、幼いころから漆塗りと身近に接してきた。進学した高岡工芸高校工芸科では漆塗りを学び、まるで名家のサラブレッドのように育っていく。そのまま家業を継ぐのかと思いきや、卒業後は一転、京都の製菓専門学校へ。
「元々は何かを作ることが好きで、お菓子作りもそうでした。県外に出てみたかった」。
と青春時代の行動を顧みる。
そのまま京都で洋菓子店のパティシエとして7年ほど働き、結婚を機に地元高岡に帰郷。そしてケーキ店を開業した。店では、お菓子を並べるトレイに父親が作った高岡漆器を使うなど、漆器への想いも変わらず持ち続けていた。いずれ自分が制作した漆器を使いたいと考え、仕事の合間に漆塗りを学ぼうとしたが、1人で店を営業していたのもあって時間が取れない。そのうちに「本当にこのままで良いのか。実家には工房があるのに誰も継がないままで良いのか」との思いが溢れ出し、それまで順調だったケーキ店を2年で閉め、父親の元で漆塗りを習い始める。4年の修業期間を経て独立し、実家の工房で作品制作に励んでいる。

会社を発展させて職人の受け皿となるのが夢

芝さんの作品は、高岡市内の販売店やイベント出展時に購入できるほか、ネット販売にも力を入れている。高岡漆器の販売は中々難しいのが課題だが、いずれ「うるしば」を大きくして社員を雇うのが夢だ。
「高岡工芸高校で漆塗りを学んでも、漆師になる人は限られます。自分の起こした会社が、漆器を仕事にしたい生徒の受け皿となり、一緒に制作していければ幸せです」。
出身高校に思いを馳せながら未来を語る芝さん。穏やかな話しぶりの中にも、芯が通った熱っぽさが伝わってきた。
工芸文化の伝承と持続可能性、この2つのテーマを胸に、芝さんは今日も工房で黙々と作業に勤しんでいる。

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