富山市でレコード巡り。レトロな名店と海鮮グルメで栄養120%の「ディグ」な旅
趣味の買い物で、思いがけず「掘り出し物」を見つける体験。それは日常に彩りを与える、かけがえのない喜びだ。 今回は、ロックとサブカルチャーを愛する筆者が、富山市内のレトロ感漂うレコード店を巡り、音源を漁る――いわゆる「ディグる」時間を満喫。さらに、元漁師が手掛ける富山湾の海の幸定食を堪能した、ある一日を綴っていく。
アルゴリズムより、自分の直感を。レコ屋巡りが生む音への愛着
-1996年・秋-
「今月の『DOLL』買った?」
「いや、まだ」
「読んでないのかよ!なんかさ、ハイスタ(Hi-STANDARD)のプロデュースでさ、パンクバンドのCDが出るんだってよ。SHERBET(シャーベット)って名前で、裏表紙に載っていたぜ!」
そんな会話が日常の一部だった、インターネット黎明期。音楽好きが高じて高校生バンドを組んでいたオレたちの情報源は、雑誌やテレビ、ラジオが全てだった。中でも毎月欠かさず購入していたのが、パンクロックの聖典ともいえる雑誌『DOLL』(現在は休刊)だった。
パンクにハマっていたオレは、親からもらう毎日の昼食代500円をパン1個でしのぎ、月曜から金曜までの5日間で約2,000円を捻り出した。その金を握りしめてレコード・CD屋に赴き、誌面で紹介されていたバンドの輸入盤CDやレコードを血眼になって探す。それが何よりの至福だった。
そんな苦労や工面もなく、月々1,200円程度でオールジャンルの音楽が聴けるサブスクリプションが主流となった今、レコード屋巡りは時代遅れの習慣なのかもしれない。けれど、アルゴリズムに選ばれた曲は、どうも心に深くは染み入ってこない。自分の足と目と耳で探し当てた音源こそが、強い愛着を生むのだと思う。
あの頃の衝動を令和の今に呼び覚ますように、久しぶりにレコ屋巡りへ繰り出した。
未開拓の島を歩く高揚感。国道41号沿いに潜む「グリーロレコード」
はじめに訪れたのは、富山市南部・国道41号線沿いにある「グリーロレコード」。初めて足を踏み入れると、衣類やアンティークな雑貨などがずらりと並び「ここは本当にレコード屋なのか?」と意表を突かれた。けれど、店内のあちこちに潜むクセの強いアイテムに、まるで未開拓の島に降り立ったようなワクワク感が込み上げてくる。
オーナーの神田剛(かんだ・つよし)さんは2001年に富山市中心部に店を開き、2018年に現在の場所へ移転した。CDとLPは約20,000枚を取扱うほか、雑誌からトラクターに至るまで、自身の目利きで「良い」と直感した品々を揃えている。
音源はオールジャンルだが、特にレゲエミュージックに対して造詣が深く、かつてはそのルーツであるジャマイカまでレコードを買い付けに行っていたという。ここでしか手に入らない激レアな音源を求め、県内外、さらには海外からもファンが訪れる。
さっそく「ディグ」をはじめる。歌謡曲のレコードやCD、カセットテープまでもそろっており、ジャケットを眺めるだけで当時の記憶がふっと蘇る。昭和レトロなグラスやアニメのソフビ人形など、ノスタルジーに浸るには充分過ぎるほどの品揃えだ。
かつて聴き倒したパンクのLPを漁っていた時、思わぬ「再会」を果たした。冒頭で触れた学生時代のバイブル、『DOLL』である。社会人になり、いつの間にか手元から消えてしまったあの雑誌が、20年以上の時を経て、当時のままの美しい状態で目の前に現れたのだ。迷わず、貪るように読んでいた年代の4冊を手に取り、レジへと向かった。
「神田さん!学生の頃、これめっちゃ読んでたんですよ!こんなに綺麗な状態で残ってるなんて凄すぎる。ぜひ買わせて下さい!」
弾む声とともに、オレは迷いなく財布のひもを緩めた。
Column
元漁師が振る舞う、富山湾の海の幸たっぷり「だいせん丸」
長時間の「ディグ」と感情の揺さぶりで、すっかり腹が減った。昼飯を求めて向かったのは、グリーロレコードからほど近い「朝獲れ海鮮定食&ドッグランだいせん丸」。魚津(うおづ)や新湊(しんみなと)港など、県内の港で揚がったばかりの魚介を堪能できる店だ。
親方の本郷比朗竜(ほんごう・ひろたつ)さんは元漁師。「富山湾の魚をもっと身近に感じてほしい」との思いで、2022年に店を開いた。富山インターや国道41号線からのアクセスも良く、自慢の海の幸を求めて県外からも多くの客が訪れる。
今回は、刺身と天ぷらの両方が欲張れる「おまかせ定食」を注文した。この日のラインナップは、魚津港で水揚げされた逸品揃い。刺身はヒラマサ、シロガレイ、ヤガラ。天ぷらはシマダイ、カワハギ、サバ、アジ。調理したて、揚げたてで運ばれてきた。
射水(いみず)の「ナカロク」甘口醤油をつけ、まずは刺身を一口。しっかりと締まった身の弾力に、醤油のほんのりとした甘さが重なって、たまらず白飯をかき込む。天ぷらは驚くほど身がふわふわで、冷凍ものとは一線を画す鮮度抜群の旨味を舌で感じ取った。
ご飯はもちろん富山県産米。サイズが大・中・小から選べるのだが、中年の悲哀ゆえか、つい日和って「中盛り」を選んでしまった。しかし、あまりの飯の進み具合に、「大盛りにすれば良かった」とすぐさま後悔する。次に来る時は、「上刺身定食」を大盛りでかっ食らおう。そう心に誓い、満足感とともに店を後にした。
Column
朝獲れ海鮮定食&ドッグラン だいせん丸
【住所】富山市八日町3
【TEL】076-482-5775
【営業時間】月~金曜日11:00~19:00、土曜日11:00~21:00、日曜日6:30~9:00、11:00~14:30
【定休日】毎月第3月曜日、年末年始
思春期の記憶が交差する。南富山駅前に灯る聖地「サウス・ストリート」
レコ屋巡りの2店目は、南富山駅前商店街の一角に位置する「サウス・ストリート」。この店はオレが音楽に目覚めた中学生時代、足繫く通った場所だ。
「世間と同じ音楽を聴くなんてダサい」-。そんな青い自意識(いわゆる中二病)に突如として侵されたオレは、買ったばかりのB´zの初回限定盤のアルバムをこの店で売り払い、その金でBOØWYの中古CDを購入した。それを何万回と聴きまくった青臭い日々が、つい昨日のように思い出される。
店の佇まいは当時のままだ。夜になると、カラーパイプの蛍光灯が店名を浮かび上がらせる。そのレトロな光景を眺めていると、ここだけが当時の情景を切り取ったまま保存されているような、不思議な感覚に陥ってしまう。
1981年にオープンした店内にはCDとLPが約20,000枚並ぶ。長細いシルエットが特徴の「8センチシングルCD」も健在だ。ふと、尾崎豊の「I LOVE YOU」を手に取る。歌詞の意味も分からぬまま、バレンタインデーのお返しとして意中の子にプレゼントした中学時代の黒歴史――もとい、甘酸っぱい記憶が引き起こされ、恥ずかしさでいてもたってもいられなくなった。
店主の西田幸雄(にしだ・ゆきお)さんによれば、サブスクに入ってないアーティストや楽曲を求め、ここを訪れる客も多いという。確かに、かつては聴くことができた曲が、権利関係の影響かサブスクからいつの間にか抜け落ちていることは多々ある。暗いコロナ禍でオレの心の支えとなり、激リピしていたラウド系アイドル「NEVE SLIDE DOWN(ニーヴ・スライド・ダウン)」の「Selfie」という曲が、まさにそれだった。いざ探してみても、音源は廃盤となり、二度と巡り合えない。その事実に直面してから「音源を買っておけば良かった」と後悔しても後の祭りであり、だからこそディグる意味を再認識したのだ。
同店の二階には、店のファンがディスプレイを手伝ったという「ハードロック・ヘヴィーメタルフロア」がある。そっち系のジャンルにはそれほど詳しくないものの、覗いてみる。
所狭しと貼られたポスターやバンドTシャツからは、ファンや店主の深い愛情が伝わってくる。メタル界の聖地は、ここ南富山にあったのだ。オレはそんな新たな発見を胸に、心地良い充足感とともに店を出た。
Column
人生の指針となった音を探して。パンクの初期衝動が眠る「ディスク・ビート」
レコ屋巡りの最後を締めくくるのは、ここしかない。富山市中心部にある「ディスク・ビート」である。ここで出会ったある音源とそのバンドをディグったことで、人生の指針が示されたといっても過言ではない。
当時はパンクというジャンルの中でも、性急なリズムとサビのハモリが特徴の「メロディック・ハードコア(メロコア)」が流行の真っ只中。聴きやすさはあるものの、メロディーラインが綺麗すぎて飽きも早い。
「こんなの、J-POPヒットチャートの楽曲と何が違うんだよ。ひねくれ感が足りない」とバンドメンバーにぼやき、オレは次第に興味を失いかけていた。
そんなある日、いつものように昼食代を切り詰めて捻出した金を握りしめ、店を訪れた。『DOLL』の記事で妙に強気な言葉を並べていた、ある日本のバンドのCDが目に留まった。
家に帰り、CDラジカセの再生ボタンを押した瞬間、空気が変わった。1曲3分にも満たない爆音の中に、初期衝動も反骨精神も、すべてが詰め込まれていた。
バンド名は「REGISTRATORS(レジストレイタース)」。海外レーベルからリリースされた輸入盤で、値段は1,500円を切っていた。
あの時、安さにつられて手に取った一枚が、その後の音楽の聴き方を決定づけた。
「これだ、これこそが探していた音だ」。そう確信してから、深く潜るようにのめり込み、彼らが推薦するB級パンクバンドを探すため、幾度も同店を訪れるようになった。
あの時の熱情はどこへ行ったのか。20数年振りに訪れた同店は、昔と変わらない風情でオレを包み込むかのように出迎えてくれた。同店はロック系を中心にCD約7,000枚、LP約3,000枚、7インチEP約4,500枚を揃える。ほか、定期的に富山市民プラザや富山駅周辺で合同イベントを開催、レコードを出品している。
店主の長島和浩(ながしま・かずひろ)さんに、昨今のレコード・CDの事情を伺いながら、パンクの棚を掘っていると、懐かしい一枚を見つけた。
「いやー、このthee headcoats(ジ・ヘッドコーツ)のアルバムがあるなんて驚きましたよ!」
思わず声を掛けると、そのバンドの魅力を深く理解した、胸に刺さる返答が返ってくる。
これこそが、サブスクでは得られない、音源漁りの妙だ。店主との何気ない会話が、また新たな音源に出会うきっかけになる。アルゴリズムなんていらない、真の「音探し」が、ここにはある。
その界隈の「THE TWEEZERS(ザ・ツイーザーズ)」のLPを同店で発見した時、オレのたかぶりは最高潮に達した。サブスクにも入っていない、おそらく自宅で眠っているその音源。パンクから派生したパワーポップというジャンルに魅了され、全曲口ずさめるほど聴き込んだあのアルバムが、無性に聴きたくなってきた。まずは家でディグろう。なかったらここに買いに来ればいい。そんな思いを胸に帰路についた。
Column
あの日々を音量上げて。アルゴリズムを超えた「ディグ」の果てに
栄養度の高いレコ屋巡りの一日。帰宅し、グリーロレコードで手に入れた『DOLL』をめくる。裏表紙に、あのバンド名を見つけた。
身体が先に動いた。
段ボールの底から掘り出したSHERBETのCDをラジカセに放り込んだ。サブスクでは決して辿り着けない名曲「Remember in those days(あの日々を覚えているか)」。音量を上げて鳴り響く青臭いメロディに身を委ねながら、オレは今日という贅沢な日々を静かに振り返るのであった。
地図はこちら
Google Mapの読み込みが1日の上限を超えた場合、正しく表示されない場合がございますので、ご了承ください