富山市水橋の温泉で昇天した後は“キトキト”の漁師料理でキメる!港町で繰り広げる中年の小旅行【フロメシ漫湯(まんゆう)記1】

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湯船に漬かって心身の洗濯をした後、風呂上がりの一杯で火照った身体を冷まし、ウマい料理と酒をアテに友人と談笑する。それは中年世代にとって幸せな余暇の過ごし方ではなかろうか。
今回は連載「ジモメシ放浪記」から派生し、風呂(フロ)と食事(メシ)、その二つを掛け合わせた「フロメシ漫湯(まんゆう)記」を企画した。
第一回目は富山市水橋の港町を舞台に繰り広げる小旅行記をご笑覧下さい。

「風呂ポジティブ界隈」昭和後期生まれの“おらっちゃ”の幸せとは

「『風呂キャンセル界隈』って流行語、あんねけ(富山弁=あるよね)」
「ああ、よくは知らないけどあるね。最近の世間てものに、おらっちゃ(自分たち)は年々ついていけなくなってきたけど」
「風呂に入らない行為を賛同する意味らしいねか(らしいよね)。それさ、マジで意味不明だわ!風呂入らんと明日迎えれんくねえか!?」

ナイフのように尖る若造だった2000年を25年以上経過したある日の飲み会。昭和後期生まれの友が、ビールジョッキをどん、と置き、現代社会を歌でぶった切るパンクロッカーのようなやさぐれた勢いで、令和版サブカルチャーに反抗する文言を口にした。

「おお、分かるぜ。それならこちとら『風呂ポジティブ界隈』だわ。なにがNO!入浴!じゃ。日本の伝説ロックバンド・BOφWY(ボウイ)の名曲かよっ(注1)。風呂とメシ、そして酒で安らいでよ、ありがた~く(眠く)なるのが幸せなんやねか!」。
赤らんだ酔いの顔を向け、熱っぽく相槌を打つ。その一方、違う頭で(風呂とメシを混ぜ合わせれば、面白い記事になるんじゃね?)と思いついたオレは、旅行業の腕を発揮してすぐさま一石二鳥の取材兼小旅行を計画。そこにいた飲み仲間を巻き込んだ。

(注1)正式な曲名は「NO.NEW YORK」

茶褐色の天然温泉が特徴・美肌に良い「水橋温泉ごくらくの湯」

「フロメシ漫湯記」当日、おらっちゃが最初に向かったのは、港町である富山市水橋地区にある天然温泉の日帰り湯「水橋温泉ごくらくの湯」。極楽、という言葉は立山信仰が深いのか、富山県では良く聞くフレーズなのだ。例えば極楽坂スキー場など。
現地に到着すると、常連と思われる年配女性が、もちもちつやつやの顔ではにかみながら、ちゃきちゃきな足取りで元気よくのれんをくぐっていた。

「ごくらくの湯」は2005年に開館した。地下1500mから湧き上がる茶褐色の天然温泉が特徴で、美肌に効果があるそうだ。先ほどの常連女性の様子を思い出してなるほど、と腑に落ちる。毎月第二水曜日は「熱湯風呂」と題してお風呂の温度を通常よりも上げており、その日を狙って県外から訪れる人もいるほどだ。

そんな温泉を早く味わいたいと、わくわくした気分で脱衣場に入り、すぐさま全裸中年男性と化して風呂場の扉を引き開ける。浴場内は洗い場と内湯と泡が出る気泡湯、仕切りを分けて肩まで漬かれる歩行湯がある。外には露天風呂。身を洗い、まずは露天風呂へ。

露天風呂、泡湯、歩行湯をめぐる

露天風呂はちょうど10人が漬かれば満杯になるくらいの広さ。かけ湯をし、「よっこいしょういち」とつぶやき、ざぶざぶと湯に身体を沈ませた。鳥肌が立つのを覚えながら、身体の底から昇り上がる、ほっこりとした何かに全身が浸食されていく。
「ふうーっ」と声に出して一呼吸し、お湯をぱしゃぱしゃと顔に浴びせる。しばしの沈黙後、ぱっと笑顔が花開く。初めてのごくらく湯との出会いが、無意識にそうさせるのだ。フロメシ友と日本の政治経済と富山の未来を駄弁りながら長湯し、外気浴で心拍を整えてから内湯へ。

泡湯に入り、シャンパンを片手にジャグジーを楽しむ富裕層気分をちょっとだけ感じ、歩行湯に移る。肩まで漬かれて歩ける浴槽の形式に、小学校の夏を思い出す。体育の授業でプールに入る前にある、お清めの儀式の消毒層。歩いてくぐり抜け、冷たいだのと消毒層の水をかけ合って騒いだ、あの淡き記憶が脳内に浮かび上がる。ビート板、プールに投げ入れてその上を渡ろうとしたなあ。目を洗う器具も、横の友達のやつを全開にしてめちゃくちゃイタズラしたなあ。監視員に烈火のごとく叱られたなあ。走馬灯とはこのことか、などと極楽に昇って過去を達観したような気持ちになり、身も心もさっぱりとして風呂を上がった。

休憩所で八尾乳業協同組合の瓶に入ったコーヒー牛乳を流し込む。すっきりとした甘みが五臓六腑に染み渡り心地が良い。滴る汗をタオルでぬぐいながら一息ついていると、徐々に腹の虫が鳴り始める。
「風呂入ると、体力使うからか腹が減るよね」
「空腹が最高のスパイス、ってやつだな。こりゃ晩メシは美味しく食べられそうだわ」
ベストコンディションで食と相まみえる喜びを噛みしめ、ごくらくの湯を後にした。

漁師が経営する「水橋食堂漁夫」で港町のメシをアテに一杯

次におらっちゃが向かったのは「ごくらくの湯」から車で5分もかからない「水橋食堂漁夫」。水橋の漁師が経営する店として水橋漁港そばに2021年オープン、昼食の海鮮丼が評判を呼び、ランチタイムは行列ができる人気店だ。最近では富山駅前の商業施設「マリエとやま」にも二店舗目の「海鮮食堂ぎょっこ」を構えている。
「モニカさ、漁夫の昼メニューはもちろん人気なんだけど、実は夜が穴場みたいなんだわ。オレがYoutubeに登録しとる旅行系インフルエンサーがこの前、夜メニューの動画アップしとってさ、めっちゃ美味そうで、夜に行かなアカンと思ったのよ」。
と関西出身の飲兵衛の助言もあり、酔い処をここに決めたのだ。

店内はカウンターとテーブル席があり、色鮮やかな大漁旗があちこちに掲げられているのが、港町に来た雰囲気を醸し出している。

風呂上りは、有無を言わさず炭酸入り麦茶という名のビールだろう。
「じゃあ、とりあえず、良いフロと、これから出てくるメシにカンパーイ!」
ジョッキを重ね合わせて音を響かせ、ごくごく、っと勢いづいて喉を鳴らす。
「ぷふぁーっ。URYYYY!たまんないひと時!」麦酒の泡でちょびヒゲを作りつつ、アルコールが脳天をかけめぐっていく快楽に浸る。

名物「ホタルイカ三種盛り」は珍味の一丁目一番地

最初は名物の「ホタルイカの三種盛り」から。獲れたてのホタルイカを沖漬け、黒作り、キムチにそれぞれ漬け込んだ一品。口に含むと、つるつるとした食感と、噛むほどに漬けの風味が広がっていく。残った濃厚さをアテに酒を流し込めば、ほろ酔いオジサンの出来上がり。酒でキマる一丁目一番地の珍味だと個人的に思う。特にキムチ漬けは今まで口にしたことがなく、辛い物好きにはたまらない。

「知っとるけ?富山産ホタルイカってのはサア、天然の生簀(いけす)とされる富山湾までの長い距離を泳いでくる元気なメスのイカがほとんどで、栄養満点の漁場で育つからサイズも大きくて旨味も強いんよっ」
ドヤ顔を見せ、オレはこの前富山県の講義で習った知識を鼻にかけて披露する。
「へえ。物知り。ま、それよりも次や次。漁師メシ、バッチ来~い!」
いつも通り棒読みな態度でスルーされる。冷遇からこじらせ度合いが増していくのと比例して酒量も増え、おかわりのレモンサワーも3杯目に差し掛かっていた。

続いては「漁師コロッケ」。すり身をベースにひじきとレンコンなどを入れ、ショウガなどで味付けしたコロッケだ。薄皮の衣と中のすり身のバランスが良く、ショウガが効いてあっさりとした口当たり。腹に溜まる揚げ物のイメージを払拭し、サクサクとテンポ良く食べ終えた。

どどーんと登場!富山湾の海の幸ふんだんな舟盛り

ここで、注文必須な刺身の舟盛りがどどーん、と登場。ガンドブリ、サワラ、マダイ、甘エビと、夏の富山湾で育まれた海の幸がずらり並ぶ姿にテンションは爆上がり。

刺身に付け合わせる醤油は、地元富山市水橋の「マスイチ醸造」のものが用意されている。昆布の甘口と辛口、大豆の3種類の醤油から選べ、好みに応じて刺身の味を引き出す設えが嬉しい。
まずはガンドブリを一口。出世魚のブリは大きさによって名前が変わるのは広く知られ、全国的に有名なのは冬の寒ブリであるが、地元民はその前の「フクラギ」や「ガンド」を好んで食べる。寒ブリに比べて脂身が少ないためさっぱりとしており、コリコリな身の歯触りがたまらない。

寒ブリはすこぶる美味しいのだが、中年は乗りに乗った脂で胃がもたれてしまい、二切れほど食べれば満足してしまう。
(悲しいけど、フクラギやガンドが塩梅良く美味いと思える年齢になっちまったのさ)
オレは心の中でぼそっとつぶやき、汚れちまった悲しみをまじまじと実感しつつ、箸を進める。
サワラは身が柔らかく、マダイは昆布醤油で身の締まりと風味を堪能、ぷりっとした甘エビは糖度が口内に染み渡る。みんなで舟盛りをきれいに平らげた。

そのほか、鶏のから揚げの「漁師揚げ」は塩味が強く、漁師メシならではの味付けに酒がすすむ。

「ガンドブリのカマ揚げ」はカマを素揚げしたシンプルで豪快な一品。出来立て熱々のほくほくとした身そのものの味を醤油で楽しむ。

ゴマ醤油漬け丼でシメ

最後は「漁師秘伝のゴマ醤油漬け丼」でシメる。今回はサワラが使われており、香ばしいゴマの風味と、ほたほたなサワラの口当たりを感じつつワシワシと丼をかき込む。丼に出汁を注いで味変し、ひつまぶし風に食べるとまた違った美味しさで、幸福感がさらに増す。満腹になるまで港町のキトキトな漁師メシを食べ尽くした。

腹一杯食べ尽くし“ありがた~く”なって旅路を終える

この後、盛り上がって飲み足りないおらっちゃは、富山市桜木町に場所を変えて二次会を開始。
…のはずだったのだが、風呂とメシで満たされたのか、はたまたアラフィフに差し掛かる年齢がそうさせるのか、“ありがた~く”なってあくびが出はじめ、船を漕ぐ者が続出する事態に。早々に切り上げ、中年のささやかな幸せの旅を終えたのであった。
 

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