「富山の寿司はなぜうまい?」~水の多様性と水産的視点から美味しさの秘密に迫る~
「寿司といえば、富山」。その極上の味わいは、どこから生まれるのか。観光関係者を対象とした富山県の講座「美食地質学から学ぶ『富山の寿司』はなぜうまい?」の第2回目は、“美食地質学”創始者の巽好幸(たつみ・よしゆき=ジオリブ研究所長・神戸大学名誉教授)氏と、“富山のさかなクン”こと海洋教育・海業デザイナーの大屋進之介(おおや・しんのすけ)氏を講師に招いて開催された。
講座では、富山県を流れる水が育む地酒の多様性と、県内の各漁港で獲れる魚の特徴などについて理解を深めた。
日本は「軟水」、海外は「硬水」水の性質が生み出す食文化
講座でははじめに、巽氏が、富山の地形がもたらす魚の美味しさについて論じた前回の内容を簡単に振り返った後(前回記事を参照)、今回は日本と富山県の水の性質に着目して話が進められた。
日本の河川は海外と比べ急流で、山に降った雨はすぐに河口へ流れるため、カルシウムやマグネシウムが溶け込まない「軟水」が多い。軟水は昆布のグルタミン酸を効果的に抽出でき、和食に用いられる昆布出汁を調理するのに適している。
他方、海外の河川の大半は山から河口までの距離が長く、流れる中でミネラル分が溶け込み「硬水」となる。ミネラル豊富な「硬水」は、フランス料理で用いられるフォンドボーのコク深い味わいを与える。水の性質が、食文化の違いを形作っていると巽氏は説いた。
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多種類の水が生み出す富山の地酒
続いて、巽氏は富山県の水について述べた。富山県の水は、同県の地質などによって軟水、中硬水、硬水と多種類の水が流れている。呉東(富山県東部)は硬水、呉西(富山県西部)は軟水と違いがあり、それはうどんの出汁一つをとっても、呉東は関東風、呉西は関西風で分かれているという。片や、呉西でも氷見地区は地質などによって硬水が流れている。この様々な水の種類は、富山で作られる日本酒の多様性と密接に関係しているのだそうだ。
日本酒は原料米に麴(こうじ)と酵母(こうぼ)、さらに仕込み水を加えて作られ、水が重要な位置を占める。カルシウムやマグネシウムに富む硬水は、麴と酵母を活性化し、米の旨味やコクが感じられる濃醇な味わいを生み出す。ミネラル分に乏しい軟水は、じっくりと低温発酵させてすっきりとした口当たりの淡麗な風味となる。現在日本酒で良く飲まれるのは濃醇甘口から淡麗辛口に推移しているという。富山は硬水から軟水と多様な水に恵まれており、それが地酒の多様性に結びついているとした。
寿司と酒のマリアージュを楽しもう
そして巽氏は「富山の酒と寿司とのマリアージュ」と題し、「硬水の氷見で作られた地酒は、ブリと合わせれば、濃醇な酒と魚の脂質の甘味との共演を楽しめます。呉東は軟水で作られた淡麗辛口な地酒と、繊細な味の白身やサスの昆布締め、アジ、バイとの相性が抜群です。硬水のお酒でタイを食べると味が壊れてしまう。食べ物とお酒を合わせる根拠を考えれば、さらに食を満喫できるでしょう」と語った。
そういえば、過去に富山湾鮨の取材の際、同行した日本酒好きの知人が「海のものにはな、海に近いところの酒が合うんや」と話し、地酒に寿司を組み合わせて堪能していたのを思い出した。日本酒に疎(うと)い筆者はその時、何のことやらと思い杯を空けていたが、巽氏の講座からその意味がやっと理解できた。
”富山のさかなクン”大屋氏が水産の視点から寿司を紐解く
講師は“富山のさかなクン”こと大屋進之介氏に代わり、大屋氏は「富山の魚はどこから?どうやって獲られている?」と題し、水産の視点から富山の鮨のこれからについて話を始めた。
大屋氏は高校生のころから地元メディアに出演し、海の大切さを訴えてきた。これまで、学業のかたわら全国の漁村を訪問して漁業を体験、そこで得た知見などをもとに、2021年、富山市の水橋漁港で開店した漁師直営レストラン「水橋食堂漁夫」の立ち上げに関わった(下記コラムを参照)。そのほか、射水市新湊で水産を軸とした観光プログラム作りや、大阪・関西万博イベントへの出演など多岐に渡り活動している。
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水橋食堂漁夫とは
大屋氏が立ち上げに携わった「水橋食堂漁夫」と、付近の「水橋温泉ごくらくの湯」を巡った記事はこちらから。
富山市水橋の温泉で昇天した後は“キトキト”の漁師料理でキメる!港町で繰り広げる中年の小旅行【フロメシ漫湯(まんゆう)記1】大屋氏ははじめに、日本と富山の水産業の現在地について、グラフを交えて解説した。日本の漁業水産量は1984年の1281万トンがピークで、2023年は383万トンと約三分の一の量となり、大幅に減少している。国民1人当たりの水産物消費量についても年々低下、2011年には肉類に逆転されており、水産を取り巻く環境の厳しさを述べた。
富山県の漁業の現状は、漁業生産量は約19万トンと全国28位で約8割が定置網漁を取り入れている。漁師の数は全体的に減少傾向にある一方で、船を買う必要性のない定置網漁が主体のため、漁師が増えている市町村もあるそうだ。漁業ならびに水産業の課題解決に向けて資源管理や労働環境の改善はもちろんのこと、漁業に観光や教育的なアプローチを図る「海業」の推進が肝要とした。
富山の魚はどこから?どうやって獲られている?
次に、大屋氏は富山県内の各漁港とそこで獲れる魚種についての話を展開した。話のきっかけとして「富山湾鮨」全10貫の画像をスライドに出し、1貫ずつ何の魚のネタなのかを受講者に問いかけ、さらにその握りのネタ元である魚の画像はどれなのかをクイズ感覚で聞いていく。受講者も積極的に回答し、場の雰囲気を和ませながら興味関心を引き出したところで、富山県内の10漁港の話に移った。
大屋氏は県内各漁港の漁場の特徴と主な漁法、獲れる魚について画像を用いながら解説した。例えば、富山市には岩瀬、四方、水橋と3つの漁港があるが、岩瀬と四方は海底谷の地形なのに対し、水橋は河川流入の多い地形。漁法も定置網からシロエビ船曳網、刺網漁と環境に応じて変化する。主に獲れる魚についても、岩瀬はアカムツ(ノドグロ)やスルメイカ、四方はマアジやマサバ、水橋はアカカマスやマダイと富山市の一地域を見ても違いがあると述べた。
シロエビやベニズワイガニの産地で有名な新湊漁港や、富山湾の王者「寒ブリ」ブランドが名高い氷見漁港、春の風物詩ホタルイカ漁の滑川漁港といった有名どころから、県内最東端、「タラ汁」の食文化が根づく朝日町宮崎漁港で獲れるマダラまでを、大屋氏は分かりやすく説明した。
特に宮崎漁港については、筆者が過去に「ジモメシ放浪記」の取材で同漁港付近の旅館に宿泊した際、夕食で出されたモズクの酢の物とタラ汁に感銘を受けたのを思い出し、肌感覚でしかなかった美味しさの記憶を、理屈で補完した気持ちになった(下記リンクを参照)。
県内各漁港で獲れる魚の特徴は、先に巽氏が解説した地酒と魚との相性に結びつく部分もあり、一本の線がつながったかのように理解が深まった。
魚や水産業の営みを伝え、「寿司といえば、富山」をさらに高める
最後に大屋氏は、「富山湾の地形がもたらす富山の漁場は、水産業の視点から見ても『寿司といえば富山!』と言えます。これからは、観光客へ富山の鮨の美味しさを話す前に、その背景にある魚や水産業の営みを伝えることが重要です」と話した。
前述した「海業」の重要性についても改めて熱弁した。海業とは、例えば観光客への漁業や観光船への乗船体験などで、観光客にとっては付加価値の高い非日常体験となり、漁業者にとっても副収入や漁港の利活用にメリットがある。ひいては関係人口の創出につながり、漁村地域の活性化が期待できる。大屋氏は、将来はそういった活動に携われるような「水産コミュニケーター」になりたいと夢を語り、話を締めくくった。
この記事は、富山県ブランディング推進課とのタイアップです。